交通事故によるケガで多いのがむちうち(頸椎捻挫)です。自動車に乗車中の追突事故、歩行中、自転車で走行中の接触事故など,あらゆる態様の事故で発症する可能性があり、治療に時間がかかり、後遺症の残りやすいケガでもあります。むちうちは、通院期間中やその後の生活に大きく影響しますので、しっかりと治療を受けて慰謝料を請求することが大切です。
ここでは、交通事故によるむちうちで支払われる入通院慰謝料や後遺障害慰謝料などの計算方法や金額の相場、適切な慰謝料を受け取るために大切なことをご説明していきます。
むちうちの入通院慰謝料の計算方法と相場
交通事故でむちうちを発症し、整形外科や整骨院に通院したら、相手保険会社に入通院慰謝料を請求することができます。
では、いくら請求できるのでしょうか?
交通事故で入通院慰謝料の金額を決める基準、計算方法、金額の相場を確認していきましょう。
交通事故慰謝料3つの基準
基準 | 裁判基準 |
---|---|
自賠責基準 | 自賠責保険で決められている金額 |
任意保険基準 | 加害者の任意保険会社が提示する金額 |
裁判基準 (弁護士基準) |
裁判をした際に認められる金額 |
慰謝料の計算は、上記の自賠責基準、任意保険基準、裁判基準を使用して行います。
この3つの基準は金額や計算方法が異なります。
裁判基準は、任意保険基準、自賠責基準と比較して高額で、むちうちの慰謝料では任意保険基準と裁判基準の金額差が数倍(裁判基準のほうが高額)であることも珍しくありません。
そのため、保険会社との示談交渉では、裁判基準を根拠に慰謝料の増額を求めていくことが重要となります。
交渉によって必ず裁判基準の慰謝料が支払われるとは限りませんが、自賠責基準や任意保険基準よりも高額の慰謝料が認められるケースが多いです。
3つの基準について詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
つぎは、各基準での入通院慰謝料の計算方法や相場をご説明していきます。
自賠責基準の入通院慰謝料
1日4,300円×総治療期間(最初に入通院した日から最後に入通院した日までの期間)
または
1日4,300円×実通院日数の2倍
この2つの計算式のうち、金額が低くなるほうを使用します。
2020年3月31日までに発生した交通事故の場合は、1日あたり4,200円で計算します。
任意保険基準の入通院慰謝料
任意保険基準は保険会社によって金額が異なります。
慰謝料の計算式や金額は公表されていませんが、どの保険会社も自賠責基準に比べてやや高い金額であることが多いです。
裁判基準の入通院慰謝料と相場
裁判基準 | 相場 | |
---|---|---|
1ヶ月 | 19万円 | 15万2000円 |
2ヶ月 | 36万円 | 28万8000円 |
3ヶ月 | 53万円 | 42万4000円 |
4ヶ月 | 67万円 | 53万6000円 |
5ヶ月 | 79万円 | 63万2000円 |
6ヶ月 | 89万円 | 71万2000円 |
- 裁判基準は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」を参照し、通院のみで算出。
- 相場は裁判基準の8割で算出したものです。
- 1ヶ月は30日で計算しています。
裁判基準の入通院慰謝料は上記のように月単位で金額が決められています。
入院の有無などで金額が変わり、治療期間に端数が出る場合は、1日単位で細かく金額計算を行います。
裁判基準の入通院慰謝料の計算や金額の相場は下記で詳しくご説明しています。
むちうちの慰謝料は金額が低い?
「裁判基準の入通院慰謝料と相場」でご紹介した金額は、実は他のケガと比べて低く設定されています(むちうちが自覚症状のみのケース。他覚症状が認められる際は当てはまりません)。
むちうちは治療に時間がかかることが多いケガで、3ヶ月から半年、人によっては1年近く時間がかかることもあります。
重傷のケガよりも、むちうちの治療期間が長くなることも珍しくありません。
この際に、他のケガと同じように入通院慰謝料の計算を行うと、「むちうちの慰謝料が高くなりすぎる」と考えられているため、交通事故の入通院慰謝料は、むちうちだけ裁判基準の金額が低く設定されています。
そのため、むちうちで6ヶ月通院した場合と骨折などで6ヶ月通院した場合では、むちうちの入通院慰謝料のほうが低額になります。
むちうちの後遺障害慰謝料の相場はいくら?
次に後遺障害慰謝料の基準額と相場をご説明します。
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級の認定を受けた場合のみ受け取ることができます。
計算式はなく、認定された等級によって基準額や相場が決まってきます。
むちうちの後遺障害慰謝料の基準額と相場
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 裁判基準 | 相場 |
---|---|---|---|
12級13号 | 94万円 | 290万円 | 230万円〜290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 | 90万円〜110万円 |
- 裁判基準は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」を参照。
- 相場は裁判基準の8割から10割で算出したものです。
- 2020年3月31日までに発生した交通事故の場合は、自賠責基準の金額が異なります。
むちうちで認定される後遺障害等級は、14級9号または12級13号です。
任意保険基準の金額は保険会社によって異なりますが、自賠責基準より少し高い程度の金額であることが多いです。
自賠責基準と裁判基準では後遺障害慰謝料に2倍以上の金額差があり、14級9号と12級13号にも大きな金額差があります。
むちうちの後遺障害14級と12級の違いは?
14級9号と12級13号で後遺障害慰謝料の金額が大きく変わるのは上の表の通りです。
どうせなら12級13号の認定を受けたいと思うかもしれません。
しかし、むちうちで12級13号が認定されるのは、下記のように他覚症状が確認できるケースだけです。
自覚症状でしかむちうちを証明できない時は14級9号が認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 認定されるケース |
---|---|
12級13号 | レントゲンやMRI検査で頸椎や腰痛の損傷が認められる場合(他覚症状がある場合) |
14級9号 | 検査結果で頸椎や腰椎の損傷が確認できない場合(自覚症状のみの場合) |
むちうちで請求できる賠償金と過失割合
慰謝料は、交通事故被害で相手保険会社に請求できる損害賠償の一部で、他にも治療費や休業損害などを請求することが可能です。
また、過失割合によって、受け取り金額が変わることもあります。
交通事故でむちうちになった際に請求できる賠償金をご説明していきます。
むちうちで受け取ることができる主な賠償金 |
---|
治療費 |
休業損害 |
入院雑費 |
通院交通費 |
入通院慰謝料 |
後遺障害慰謝料(後遺障害等級の認定を受けた場合) |
逸失利益(後遺障害等級の認定を受けた場合) |
治療費
むちうちの治療で整形外科や整骨院に通院した際の治療費は、原則として加害者に請求することが可能です。
治療費の請求に関しては下記で詳しくご説明しています。
通院交通費
むちうちの治療で通院する際にかかるバス代、電車代、ガソリン代、駐車場代などを請求することができます。
通院交通費の請求に関しては下記で詳しくご説明しています。
休業損害
「むちうちの症状が辛くて仕事を休んだ」、「通院のために会社を早退した」などで収入が減った場合は休業損害を請求することができます。
休業損害は、慰謝料と同じように自賠責基準、任意保険基準、裁判基準によって計算方法や金額が異なります。
休業損害について詳しくは下記でご説明しています。
逸失利益
痛みやしびれなどの後遺症が残り、後遺障害等級の認定を受けると、後遺障害慰謝料と合わせて逸失利益を請求できることがあります。
逸失利益とは、交通事故がなければ将来受け取れるはずだった収益のことで、後遺症が残ったことによって今後の仕事に影響が出る場合に請求することができます。
逸失利益の金額や計算方法については下記でご説明しています。
過失割合による減額
事故被害者に過失がつくケースでは、過失相殺によって過失の分だけ賠償金が減額されます。
たとえば、被害者に10%の過失がついていたら、相手方保険会社が払ってくれていた治療費などを含めた損害の合計額から10%減額された金額が支払われます。
むちうちにおいては、信号待ちで停車中に追突されたのであれば過失がつかないことも多いですが、お互いが走行中の事故だと、事故被害者にも一定の過失がつくことが多いです。
むちうちの治療と慰謝料・後遺症への影響
交通事故でむちうちを発症した場合や、むちうちの疑いがある場合は、治療期間中の対応がとても重要となります。
症状の回復に影響することはもちろん、慰謝料の金額も変わってきます。
次のことに気をつけながらケガの回復に努めましょう。
事故直後に病院へ行くこと
むちうちに限らずですが、ケガの状況に関わらず、交通事故にあったら事故直後に病院で診察や検査を受けたほうが良いと言われています。
交通事故では、目に見えないケガを受傷していることも多く、むちうちもそのひとつです。
また、むちうちは事故直後は痛みなどを感じず、時間が経ってから症状が出ることもあります。
事故直後に病院へ行って異常が確認できなくても、数日経ってむちうちの症状が出てくることもあります。
その場合は、すぐに病院へ行き、診察や検査を受けましょう。
症状は首以外にも出る
むちうちは首(頸部)のケガですが、肩や腕などに痛みやしびれの症状が出ることもあります。
また、頭痛やめまい、吐き気などの体調不良になることもあります。
交通事故後に感じるようになった体調不良の原因がむちうちかもしれませんので、体調の変化を感じたらすぐ病院を受診するようにしましょう。
むちうちの症状については下記で詳しくご説明しています。
むちうちの治療は継続的な通院を欠かさない
むちうちは治りにくいケガと言われており、症状を緩和させる、治していくためには医師の指示に従って継続的に通院する必要があります。
仕事が忙しい場合でも交通事故後の通院をおろそかにせず、きちんと治療を受けましょう。
欠勤した分の給料は休業損害として請求できますのでご安心ください。
継続的に通院することで、症状が回復する見込みも高まりますし、入通院慰謝料の金額も高額になる傾向があります。
また、後遺障害等級の申請を行う際に、継続的な通院が認定結果に影響することもあります。
整骨院への通院も治療期間にカウント可能
むちうちの治療では、整骨院(接骨院)で施術を受けるケースもありますが、整骨院への通院も治療期間にカウントして慰謝料を請求できます。
ただし、整骨院だけ通い、病院に行かないことはやめましょう。
整骨院だけに通院すると、後遺症が残った際の後遺障害等級の申請に支障をきたすおそれがあります。
後遺障害等級が認定されないと、後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取れず、結果として受け取れる賠償額が少なくなるかもしれません。
また、自分の判断だけで整骨院に通うこともやめましょう。
医師に許可をもらわず整骨院に通院しても、治療期間として認められない可能性があります。
事前に医師と相談し、許可をもらったうえで整骨院に通院しましょう。
交通事故被害での整骨院への通院は下記で詳しくご説明しています。
保険会社による治療費の打ち切りに気をつける
むちうちの治療期間中に起こるトラブルで多いのが保険会社による治療費の支払い打ち切りです。
むちうちの自覚症状があり、事故被害者は通院を続けたいと思っているにも関わらず、保険会社が治療費の支払い打ち切りを伝えてくることがあります。
治療費の打ち切りを打診されたら、すぐに応じるのではなく医師や弁護士に相談しましょう。
治療費の打ち切りについては下記で詳しくご説明しています。
治療中から弁護士に相談し、アドバイスをもらう
保険会社による治療費の打ち切りや治療中の対応を弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故被害に取り組んでいる弁護士であれば、治療中の相談にも無料で対応してくれることが多いです。
早めに弁護士に相談し、治療中から正しい対応をすることが、適切な慰謝料の獲得にもつながります。
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むちうちで後遺障害認定を受けるポイント
むちうちが完治せず、後遺症が残ってしまった場合は示談交渉の前に後遺障害等級の申請を行います。
ただし、後遺症が残れば必ず後遺障害等級の認定を受けられるわけではありません。
むちうちは後遺障害認定が難しい後遺症で、非該当(後遺障害等級が認定されない)と判断されてしまうこともあります。
むちうちで後遺障害等級の認定を受けるには、いくつかのポイントがあります。
病院の医師に自覚症状を都度細かく伝える
病院で診察を受けるときは自分のむちうちの症状を細かく伝えておきましょう。
交通事故の直後から症状固定後まで、むちうちの症状が一貫してあることも後遺障害等級の認定結果に影響します。
状況や気候によるちょっとした変化まで細かく説明し、むちうちとは関係ないと思われることも、念のため医師に説明したほうが良いでしょう。
後遺障害申請に必要な検査を受ける
後遺障害等級の結果は、検査結果が大きく影響することがあります。
後遺障害12級13号の認定を受けるには、レントゲンなどの画像検査でむちうちを確認できる必要があります。
また、自覚症状があることを証明する検査(スパーリングテストなど)もありますので、必要な検査を受けたうえで後遺障害等級の申請を行ったほうが良いでしょう。
通院期間6ヶ月または通院日数100日以上が目安
むちうちで後遺障害等級の認定を受けるには、一般的に通院期間6ヶ月以上、通院日数100日以上あると、認定を受けられやすいと言われています。
この期間をクリアしていても必ず認定されるとは限りませんし、少なかったら認定されないと決まっているわけでもありませんが、継続的に通院している必要はあります。
交通事故で相場の慰謝料を受け取るなら弁護士に相談
むちうちの痛みやしびれは、後遺症が残ると、その後何年にもわたって続いてきます。
その症状はケガをした本人しかわからず、とても辛いもの。病院で治療や検査をしっかりと受け、相場の慰謝料を受け取るようにしましょう。
慰謝料や保険会社の対応など、交通事故によるむちうちでお悩みを抱える方は、弁護士へのご相談をおすすめします。