逸失利益増額のカギは労働能力喪失期間。何歳まで支払われるかが大事!

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労働能力喪失期間の決め方と役割

後遺障害が残った事故被害者の将来の収入を補償する逸失利益。金額を具体的に計算する際に、労働能力喪失期間を決定します。労働能力喪失期間は、被害者の年齢や後遺障害の症状によって何歳まで認められるか異なることがあり、逸失利益の増額交渉を行う際のポイントになることが多いです。
ここでは、労働能力喪失期間の決め方や逸失利益計算時の役割について詳しくご説明いたします。

労働能力喪失期間はいつ使う?

労働能力喪失期間は、交通事故で残った後遺障害が、いつまで仕事に影響を与えるかを表した期間のことです。

示談交渉で決定し、逸失利益の計算で次のように使用します。

収入×減少する労働能力×影響を受ける期間(労働能力喪失期間)の係数

「係数?」と疑問に思われるかもしれませんが、係数については後ほどご説明します。

この計算式のうち、逸失利益の示談交渉でポイントになりやすいのが労働能力喪失期間です。

労働能力喪失期間が何年になるかで係数も変わり、結果として逸失利益の金額も変わるからです

労働能力喪失期間がどのように決められるのか、どのようなケースで争点になるのか、順番に確認していきましょう。

なお、逸失利益の金額計算や減少する労働能力(労働能力喪失率)は、下記で詳しくご説明しています。

労働能力喪失期間は何歳まで?

労働能力喪失期間は、基本的には症状固定と診断された日の年齢から67歳までの年数とされています

症状固定の時の年齢が30歳の場合、労働能力喪失期間は37年間となります。

事故にあった日の年齢で計算しないのは、逸失利益が支払われるのは症状固定以降だからです。

67歳以上の労働能力喪失期間はどうなる?

67歳までの年数だと、67歳以上の事故被害者の労働能力喪失期間は0年になってしまいます。

そのため、一定の年齢以上の方は「平均余命×1/2」という計算式で労働能力喪失期間を算出します(「平均余命」は、年齢別にあと何年生きられるかの平均値。厚生労働省が毎年発表しています)。

一定の年齢とは、「67歳-年齢」よりも「平均余命×1/2」の数値が大きくなる場合です。

何歳以上だと「平均余命×1/2」のほうが大きな数字になるのか確認してみましょう。

2019年の平均余命で比較した場合、男性は53歳以上、女性は48歳以上だと、「平均余命×1/2」の数値が大きくなりました。

「平均余命×1/2」での労働能力喪失期間の算出

学生、子どもの労働能力喪失期間はどうなる?

学生や未就労の子どもは、「67歳-年齢」が労働能力喪失期間にはなりません。

逸失利益は将来の収入に対する補償のため、学生の期間は支払いの対象期間に含まれないためです。

しかし、就業開始の年齢で労働能力喪失期間を決めようにも、何歳から働くかは示談交渉の時にはわかりません。

そのため、高校卒業の年齢である18歳(大学進学の蓋然性が認められる場合は、大学卒業の年齢である22歳)から67歳までの期間を労働能力喪失期間とすることが一般的です。

むちうちは労働能力喪失期間が短くなる?

これまでにご説明した労働能力喪失期間がそのまま保険会社に認められるとは限りません。

特にむちうちなどの神経症状で後遺障害12級13号や14級9号の認定を受けた場合は、その傾向が強くなり、後遺障害12級なら10年、後遺障害14級なら5年を目安として決まる傾向があります。

これは、腕の可動域が制限されたなどの後遺障害とは異なり、むちうちは将来治る場合や、むちうちの症状に次第に慣れていく場合があることなどが理由とされています。

さらに、10年や5年はあくまで目安のため、保険会社がもっと短い労働能力喪失期間しか認めようとしない場合もあります。

労働能力喪失期間が短いと逸失利益の金額が少なくなってしまいます。

弁護士が根拠を示しながら示談交渉を行うことで、保険会社が認める労働能力喪失期間が延長され、逸失利益を増額できる可能性があります

保険会社から提示された逸失利益の金額に疑問を感じたら、一度弁護士に相談してみましょう。

労働能力喪失期間の係数とは?

労働能力喪失期間の係数

最後に、冒頭にご紹介した計算式に記載されていた労働能力喪失期間の係数についてご説明します。

労働能力喪失期間は、決まった年数をそのまま計算に使用するわけではありません。

労働能力喪失期間1年単位で係数が振り当てられていて、その係数を計算に使用します。

なぜ、労働能力喪失期間をそのまま使わず、このような複雑な計算をするのかというと、それは逸失利益が将来に得られるはずだったお金だからです。

将来のお金を先に受け取ることで、上手に運用すれば10年後には交通事故に遭わなかった場合よりもはるかに多い金額を手にすることもできます。

このような運用による利益を事前に控除しようという考えがあり、それを踏まえた数値が労働能力喪失期間の係数というわけです。

係数には、ライプニッツ係数というものが使用されます。

労働能力喪失期間が1年から40年までのライプニッツ係数を5年おきでご紹介します。

ライプニッツ係数(労働能力喪失期間1年〜35年)

労働能力喪失期間 ライプニッツ係数
1年 0.971
5年 4.580
10年 8.530
15年 11.938
20年 14.877
25年 17.413
30年 19.600
35年 21.487
  • 上記のライプニッツ係数は、2020年4月1日以降に発生した交通事故に対して適用されます。2020年3月31日までに発生した交通事故のライプニッツ係数は国土交通省のWebサイトでご確認ください。

逸失利益をしっかり請求し、将来の不安を緩和

逸失利益は、慰謝料や休業損害など、ほかの賠償項目よりも高額になるケースが多いです

そのため、労働能力喪失期間の違いによって受け取る賠償金額が大きく変わることもあります。

増額交渉では、何年認められているか、何年まで認められるように示談交渉していくかを整理し、的確に主張していくことが大事。

弁護士に相談をして妥当な逸失利益を受け取り、将来の生活への不安を緩和させましょう。