労働能力喪失率は後遺障害等級で決まる?喪失率一覧と逸失利益への影響

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労働能力喪失率の決め方と注意点

将来の収入の損失を補償する逸失利益は、事故被害者の年収と、後遺障害が仕事に与える影響(労働能力喪失率)や年数(労働能力喪失期間)で計算します。
その中から労働能力喪失率をピックアップし、労働能力喪失率の決め方や示談交渉時の注意点、想定されるトラブルなどをまとめました。

労働能力喪失率とは?

労働能力喪失率は、後遺障害が残ったことによる仕事への影響を数値化したものです。

交通事故前を100%とした時に、後遺障害によって労働能力が何%失われたかを決め、その割合は逸失利益の計算で下記のように使用します。

収入×減少する労働能力(労働能力喪失率)×影響を受ける期間の係数

「収入×減少する労働能力」が1年間の損失金額となり、それが何年続くかで逸失利益を計算します。

そのため、労働能力喪失率の%が大きいほど、逸失利益の金額は高額になりやすいです。

逸失利益の概念や金額計算、影響を受ける期間の係数(労働能力喪失期間)について詳しくは下記をご覧ください。

労働能力喪失率の決め方

労働能力喪失率を決めるための指標として労働能力喪失率表というものがあります。

労災の給付に関する基準として設けられた表ですが、交通事故の逸失利益を計算する際にも使用されています。

労働能力喪失率表では、後遺障害等級ごとに労働能力喪失率が定められており、後遺障害14級なら5/100(5%)、12級なら14/100(14%)となっています。

労働能力喪失率表

後遺障害等級 労働能力喪失率 後遺障害等級 労働能力喪失率
1級 100/100 8級 45/100
2級 100/100 9級 35/100
3級 100/100 10級 27/100
4級 92/100 11級 20/100
5級 79/100 12級 14/100
6級 67/100 13級 9/100
7級 56/100 14級 5/100

示談交渉で労働能力喪失率は変わる?

労働能力喪失率表は、交通事故の示談交渉で重要視されており、表の数値のとおりの労働能力喪失率となるケースが多いようです。

しかし、事故被害者からは、「後遺障害が辛く仕事への影響も大きいのに、後遺障害等級だけで決まるのは納得できない」という声も聞かれます。

また、保険会社が労働能力喪失率表よりも低い数値しか認めないこともあるようです。

このようなケースでは、示談交渉をすると労働能力喪失率の変更が認められる可能性があります

ただし、「納得できない」というだけでは、保険会社に労働能力喪失率の変更を認めてもらうのは難しいでしょう。

仕事内容と後遺障害、労働能力喪失率を照らし合わせ、「こういった影響があるからもっと高い労働能力喪失率が認められるべき」と具体的に主張する必要があります。

また、過去の裁判例を示して主張することも効果的です。

労働能力喪失率表以上の数値が認められるケースは?

どのようなケースで労働能力喪失率の変更が認められるのか、例を挙げて確認していきましょう。

わかりやすいのが嗅覚障害です。

交通事故で嗅覚を失ったり減退したりした場合、後遺障害9級、12級、14級が認定される可能性があります。

事故被害者が料理人など飲食に関わる仕事をしていたら、嗅覚の後遺障害は大きな問題で、仕事を続けられないこともあるかもしれません。

しかし、認定された後遺障害等級が14級だとしたら労働能力喪失率は5%。

少ないですよね。

このようなケースで、仕事への影響を具体的に示すことで、表の数値以上の労働能力喪失率が認められる可能性があります。

労働能力喪失率表以上の数値が認められるケース

労働能力喪失率が低くなるケースは?

いっぽうで、「後遺障害は残っているけど、仕事への影響は少ない」と考えられるケースでは、表の数値より低い労働能力喪失率しか認めてもらえない可能性があります。

たとえば、デスクワークの人だと、鎖骨の変形障害(骨が変形し浮き出ること)、下肢の短縮障害(足の長さが変わってしまうこと)などの後遺障害は、仕事への影響は少ないと言われやすいです。

さらに外貌醜状(顔の傷跡)は、「仕事に影響しないから逸失利益は発生しない」と言われることも珍しくありません。

しかし、保険会社の主張が正しいとは限りません

納得できない場合は、示談交渉で労働能力喪失率表どおりで計算するべきだと反論していきましょう。

複数の後遺障害が認定された時は労働能力喪失率に注意!

複数の後遺障害が残り、併合で後遺障害の認定を受けているケースでは、保険会社から示談金が提示された際に、労働能力喪失率表に沿って労働能力喪失率を決めているか、きちんと確認をしましょう。

たとえば、12級の後遺障害が2つ残ると等級が1級繰り上がり、併合11級の認定を受けます。

そのため、労働能力喪失率も11級の20%が妥当なはず。

しかし、保険会社の提示を確認すると12級の14%で労働能力喪失率を提示されている、というようなことがあるのです。

労働能力喪失率が14%と20%では、逸失利益の金額が大きく異なる可能性があります。

保険会社の提示をそのまま受け入れるのではなく、示談交渉で労働能力喪失率の変更を求めていきましょう。

労働能力喪失率はずっと同じとは限らない

ずっと同じと限らない労働能力喪失率

労働能力喪失率を段階的に変更していき、逸失利益の金額を決める方法が示談交渉で時折、見受けられます。

たとえば、後遺障害12級で労働能力喪失期間が10年間の場合、表のとおりだと労働能力喪失率は14%です。

これを、ずっと14%で計算するのではなく、はじめの5年は14%、残り5年は10%と、途中から労働能力喪失率を変更して計算することがあります。

むちうちの場合は、時間が経過すると後遺障害の症状に慣れる傾向があるため、このように途中から労働能力喪失率を低く変更することがあります。

保険会社が逸失利益の金額を抑えるためにこのような提示をすることもあります。

いっぽうで、労働能力喪失期間を10年から15年に変更したい場合に、延長する5年分は労働能力喪失率を下げるなど、弁護士が示談交渉をする際に取り入れることもあります。

保険会社の提示内容に疑問を抱いたら弁護士に確認

労働能力喪失率は、労働能力喪失率表どおりの数値でトラブルなく決まることが多いです。

ただし、「表で決められているからそういうもの」と決め込むのではなく、きちんと詳細を確認し、「本当にこれで正しいの?」と疑問を抱くことは大切です。

もし、保険会社の提示内容で正しいか判断できなかったら、弁護士に聞いてみましょう。複雑な逸失利益の計算では、弁護士の経験や知識が頼りになります