任意保険基準の慰謝料で示談すると損をする?裁判基準との金額差を確認!

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任意保険に提示された慰謝料で示談をしてはいけない理由

交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、事故被害者は加害者の任意保険から慰謝料を受け取ることが多いです。慰謝料は、治療の終了後(または後遺障害等級の認定後)に、加害者の任意保険から金額提示がありますが、ケガの程度に関わらず、最初に提示された金額でそのまま示談することはおすすめいたしません。
なぜ、提示された慰謝料で示談をしてはいけないのか、その理由をご説明いたします。

任意保険の提示金額で示談をしてはいけない理由

はじめに、任意保険に提示された金額でそのまま示談をしてはいけない理由をご説明します。

それは、そのままの金額で示談をすると、事故被害者が損をし、加害者の任意保険が得をすることになるからです

慰謝料には相場と言われている金額がありますが、任意保険が提示してくる慰謝料は、相場以下のことがほとんどで、2倍や3倍の金額差があることも珍しくありません。

後遺障害等級の認定を受けたケースでは、100万円以上、相場より低額のことも多いです。

保険会社は、相場も把握した上で、相場より低い金額をあえて提示してきています。

そのため、事故被害者が保険会社に提示された金額でそのまま示談をしてしまうと、被害者が損をし、加害者の任意保険が得することになってしまう、というわけです。

慰謝料で損をしないために知っておくこと

交通事故における慰謝料や損害賠償請求の仕組みをご説明しながら、任意保険の提示で示談をしてはいけない、より詳しい理由をお伝えしていきます。

慰謝料の金額は交渉で決める

交通事故の被害者は、加害者に損害賠償請求を行い、交通事故による損失(賠償金)をお金で払ってもらうことになります。

この時の賠償金の金額は、任意保険が決定権を持っているわけではありません。

被害者側と加害者側で協議の上、お互いが納得した金額が被害者に支払われます。

つまり、加害者の任意保険が提示してきた金額に納得できない時は、すぐに合意せず、金額を争うことができます。

交通事故においては、示談交渉、もしくは裁判で加害者の任意保険と争うことができます。

裁判は大ごとで時間もかかるため、先に示談交渉を行うことがほとんどです。

示談交渉は、裁判をしないで当事者で話し合って争いごとを解決する方法で、保険会社が提示してきた金額に対して具体的な反論を行い、お互いが合意できる着地点を見つけていきます。

交通事故における慰謝料計算の3つの基準

示談交渉や裁判では、被害者がほしい金額をやみくもに主張しても認められません。

目安にしている基準や金額の計算式があります。

基準は自賠責基準任意保険基準裁判基準の3つがあります。

自賠責基準

自賠責基準とは、自賠責保険で填補される額の基準をいいます。

自賠責保険の金額のため、加害者が任意保険に加入している場合は、自賠責基準以上の金額が支払われるのが通常ですが、時々、任意保険が自賠責基準で提示してくることもあります。

任意保険基準

任意保険基準とは、任意保険会社が独自に定める基準のことをいいます。

ここまでに何度か出てきた「任意保険から提示された慰謝料」は、任意保険基準で計算された金額です。

保険会社によって金額の違いがありますが、自賠責保険よりは多く、裁判基準より少ない額であることがほとんどです。

裁判基準

裁判基準とは、裁判をしたときに認定される金額をもとにした基準をいい、3つの基準の中でもっとも高額であるケースがほとんどです。

この金額は裁判をせず示談交渉で争った場合でも認められる可能性があります。

いっぽうで一部の例外(ひき逃げなど、加害者が悪質なケース)を除き、裁判基準以上の金額が支払われるケースは少ないです。

慰謝料は、任意保険基準と裁判基準の間で争う

ご説明したように、任意保険基準は裁判基準よりも低額です。

そのため、加害者の任意保険会社に提示された任意保険基準の慰謝料に納得できないときは、裁判基準の金額を根拠に増額を求めていくことになります。

示談交渉で増額を求めることで、裁判基準の金額が認められることがあります

また、任意保険が裁判基準の満額を認めなくても、裁判基準の8割から9割程度の金額までは認めることが多く、この金額でも任意保険基準より高額のケースがほとんどです。

任意保険は増額を前提に慰謝料を提示している

加害者の任意保険は、裁判基準の金額を把握していますし、増額交渉することを前提に任意保険基準の金額を提示しています。

「最初は低く提示して、事故被害者に受け入れてもらえなかったら、できる範囲で増額しよう」と考えていると思ってください。

保険会社が最初に低い金額を提示するのは、支払う慰謝料の金額が低いほうが会社の利益が大きくなるからです。

たとえば、自賠責保険の金額での示談を事故被害者が認めたら、任意保険は自社の支出がなくなり、その分利益が多くなります。

ビジネスとして考えれば、支出(支払う慰謝料)はできるだけ抑えたいのが保険会社の立場です。

さらに言えば、保険会社にとってお客さまは加害者で、被害者はお客さまではありません。

そのため、被害者のことを考えて最大限の金額を支払うよりも、加害者の主張や自社の利益を優先するのは、立場的には当たり前のことだとも言えます。

任意保険基準と裁判基準の慰謝料の金額差

任意保険基準と裁判基準ではどの程度の金額差があるのか、実際に計算をして確認してみましょう。

通院6ヶ月の入通院慰謝料

6ヶ月間通院した場合の慰謝料の金額差を確認していきましょう。

任意保険基準は具体的な金額は保険会社によって異なりますが、ここでは、かつて任意保険会社が金額の計算に使用し、今も任意保険基準に近いとされている旧任意保険支払基準を参考金額とします。

6ヶ月間治療が必要になって、50日通院した場合、それぞれの基準の金額は下記のとおりとなります。

基準
自賠責保険基準 430,000円
任意保険基準(※1) 643,000円
裁判基準(※2) 1,160,000円
  • 1 保険会社と具体的なケガの状態により金額には若干幅があります。
  • 2 裁判基準には別表Iと別表IIの2種類があり、他覚的所見がない場合等は別表IIという基準が使われます。その場合は890,000円となります。

任意保険会社基準と裁判基準で、約50万円も差があります。

裁判基準の8割だと928,000円、9割だと1,044,000円で、いずれも任意保険基準と大きな金額があります。

交渉をせずに任意保険から提示された金額で示談してしまったら、数十万円損をしたことになってしまいます。

後遺障害慰謝料

続いて後遺障害慰謝料について見てみましょう。

むちうちなどで認定されることが多い後遺障害14級と12級を例に確認します。

任意保険基準は、保険会社ごとに金額が異なるため、まずは自賠責基準と裁判基準での金額差を確認します。

後遺障害 自賠責基準 裁判基準
12級 94万円 290万円
14級 32万円 110万円

自賠責基準と裁判基準には3倍程度の金額差があり、12級では数百万円の金額差があります。

任意保険基準と裁判基準で金額差を比較することはできませんが、任意保険基準は裁判基準よりやや高い金額のため、裁判基準とは大きな金額差があります。

12級よりも重い後遺障害等級が認定された場合には、この金額差はさらに広がり、その差が1000万円以上となることもあります。

後遺障害慰謝料は、入通院慰謝料以上に金額差があり、任意保険から提示された金額で示談をすると、大きく損をする可能性があります。

損をしないためにも弁護士に相談

任意保険基準に慰謝料で示談をしてはいけない理由についてお伝えしてきました。

適切な慰謝料を受け取るためには、増額交渉をしっかりと行うことが欠かせません。

ご自身での交渉が難しい場合、弁護士に相談して示談交渉することをご検討ください

弁護士費用を懸念される方もいますが、後遺障害が残っているようなケースでは、ご紹介したような大きな金額差がありますので、弁護士費用を差し引いても受け取る慰謝料が増える可能性が高いです。

弁護士に相談をして、適切な示談金を受け取れるようにしましょう。