自賠責保険と任意保険の違いは?補償の範囲や慰謝料の金額をチェック!

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自賠責保険と任意保険とで、慰謝料の金額が変わることも

交通事故被害に遭った際に、慰謝料がどこからどのように支払われるのか明確に分かっている人はそこまで多くないかもしれません。
「そもそも自賠責保険と任意保険の違いとはなんなのか?」「自賠責保険と任意保険とで慰謝料に差は出てくるのか?」などの疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
こちらでは、自賠責保険と任意保険で、慰謝料・治療費・休業損害などにどのような変化が出るのか、どちらから何がいくら支払われるのかなどを解説していきます。

自賠責保険と任意保険の違い

はじめに、自動車保険における自賠責保険任意保険との2つの違いを説明します。

自賠責保険は、自動車やバイクを購入する際に加入することになり、車検においても自賠責保険に加入していない自動車は通らないため、強制保険とも呼ばれます。

いっぽう、任意保険は必ずしも加入する必要はなく、加入していないからといって運転ができなくなるようなこともありません。

つまり、自賠責保険への加入は義務であるのに対して、任意保険の加入は自由になります。

補償範囲の違い

自賠責保険と任意保険では、補償範囲が大きく異なります。

任意保険のほうが多種多様な補償サービスを兼ね備えています。

たとえば、自賠責保険が適用されるのは、事故の相手方のケガ、後遺障害、死亡の補償に限定されているのに対して、任意保険の補償範囲は、事故の相手方のケガ、後遺障害、死亡のみならず、相手方や加入者、搭乗者の身体・車・物(積載物)など多岐に渡って補償がなされます(具体的な補償の範囲は,加入する保険や特約の状況などによって変わります)。

下記は具体的な補償範囲を比較した表です。

自賠責保険と任意保険の補償対象について

相手方への
補償
相手方との交渉の代行 加入者への
補償
死傷 自動車・器物 死傷 自動車・器物
自賠責保険
任意
保険

自賠責保険は、事故の相手方が死傷することで発生した損害のみを補償します。

実際の補償範囲は、傷害による損害と後遺障害による損害と死亡による損害の3つで、上限金額があり、上限金額を損害額が上回ってしまった場合、超過分を保険から受け取ることはできません。

いっぽう、任意保険の補償範囲は、相手方の身体だけでなく、加入者や搭乗者の身体・車・物など広範囲にわたり、自賠責保険のみではカバーできない部分を補っていくことが可能です

上限金額については,保険会社との契約次第ではありますが,対人対物については無制限とする保険が一般的です。

任意保険の補償内容

補償対象 補償内容
対人賠償保険(相手方のケガの補償) 交通事故で相手方の車に乗っていた人や歩行者をケガさせたり、死亡させてしまったときなど、法律上の損害賠償責任を負担する場合に、自賠責保険の限度額を超える損害賠償をカバーしてもらえます。
対物賠償保険(相手方の物の補償) 交通事故を起こして、他人の車や物などの財物に損害を与えた際に補償されます。
人身傷害補償保険(自分・搭乗者のケガの補償) 支払いの項目は、主に対人賠償保険と同じ内容ですが、過失に関係なく補償を受けることができます。
ただし、自分が加害者の事故の場合は、相手方から損害賠償が受けられません。
支払われるのは実損害の範囲のみとなります(相手方から支払われた保険金や労災補償等あればその分は差し引かれます)。
搭乗者傷害保険(自分・搭乗者のケガの補償) 自分の自動車に乗っている人(運転者・同乗者)が死亡・ケガをした場合に、自賠責保険や対人賠償保険などとは別に定額の保険金が支払われます(相手方から支払われた慰謝料等の影響を受けませんし,相手方との示談に際し搭乗者傷害保険に基づいて受け取った金額を差し引きすることもありません)。
車両保険(自分の車への補償) 事故によって破損した契約車両の修理代が支払われます。契約内容によって、単独事故や当て逃げも補償するタイプや、他車との接触による損害のみを補償するタイプがあります。
無保険車傷害保険(自分・搭乗者への補償) 賠償能力が十分でない車の過失による事故に巻き込まれた場合に、保険金を受け取ることができます(死亡、後遺障害の賠償のみ)。
自損事故保険(自分・搭乗者への補償) 運転手自らの責任で起こした事故で、運転手自身が死亡・ケガ(後遺障害)をした場合、入通院の日数に応じて低額の保険金が支払われます。

一般的に、任意保険に加入する際には、目的に応じた補償を選ぶことになります。

すべてに加入することも可能ですし、目的別につけたいサービスだけ加入することもできます。

事故の相手の任意保険状況による違い

交通事故被害に遭った場合に、交通事故の加害者が任意保険をつけているか、自賠責保険のみの加入なのかによって補償してもらえる内容や対応に大きな違いが出てきます。

こちらでは、交通事故に遭った際の相手方が自賠責保険しか加入していなかった場合と任意保険にも加入していた場合とで、補償や対応にどのような差が出てくるのかを解説していきます。

やりとり・交渉相手の違い

交通事故の加害者が任意保険にも加入していれば、任意保険には基本的に示談交渉の代行サービスが付帯されているため、事故被害者側は基本的には任意保険会社の担当者とやりとりや示談交渉を進めていくことになります。

そのため、当事者間で話を進めていく必要はありません。

加害者との直接交渉ではなく加害者の任意保険会社の担当者と話を進めていける点は安心でしょう。

しかし、交通事故の相手方が自賠責保険しか加入をしていない場合だと対応が異なります。

自賠責保険は間に立って対応するサービスがないため、事故被害者側と事故加害者側の当事者同士での話し合いが必要になります。

そのため、被害者が慰謝料の支払いを請求しても、加害者側から連絡を無視されてしまうなどのケースも考えられます(そのような場合には裁判を提起するなどの必要があります)。

請求方法の違い

自賠責保険と任意保険とでは、慰謝料の請求方法も異なります。

交通事故の加害者が任意保険に加入している場合には、基本的に相手保険会社に手続きを一任できます。
これを一括対応と言います。
一括対応では、加害者の任意保険会社が、自賠責保険に加害者の賠償義務の有無などについて問い合わせをしたうえで、自賠責基準に基づいて支払われる金額に任意保険基準に基づく支払部分を加算して事故被害者に支払い、後日、自賠責から自賠責基準に基づく算定額を回収します。

後遺症が残り、後遺障害等級の申請を行う際も事前認定で相手保険会社が手続きをしてくれます。

いっぽうで相手方が任意保険に加入していない場合、被害者請求という方法で事故被害者が自ら相手方に対して損害賠償を求めるとともに、基本的には自身で相手の自賠責保険へ請求していくことになります。
加害者が自賠責保険にだけ加入している場合でも、任意保険における保険会社による一括対応と同じく、加害者が被害者に損害賠償を行い、後日、加害者が自賠責保険から回収する加害者請求という方法もありますが、加害者の賠償能力や誠実性による部分もあり、被害者請求を行うケースが多いです。

事前認定と被害者請求には、それぞれ、メリットやデメリットがありますので、ご紹介します。

事前認定と被害者請求のメリット・デメリット

事前認定 被害者請求
メリット 任意保険会社が申請の準備をすべて実施してくれる。
被害者は自ら書類や資料を揃える手間がない。
加害者請求だと加害者任せになってしまう不安や抵抗があるが、被害者請求はそういった心配がなく申請を行うことが可能。
デメリット 手続きを任意保険会社は相手方の保険会社のため、被害者にとって有利な対応をしてくれることは少ない。 専門的な内容になり、事故の治療をしながら対応する手間が発生する

なお、加害者が認定保険に加入しているケースでも、後遺障害等級の申請などで被害者請求を選択することがあります。

事前認定や被害者請求について詳しくは「 交通事故の被害者請求とは?必要書類や手続きをする際の注意点」をご確認ください。

自賠責保険と任意保険での支払われる慰謝料(賠償金)の違い

相手が任意保険に加入しているかどうかで、慰謝料に大きな差になる

交通事故の相手方が自賠責保険のみの加入なのか、任意保険の加入もあるのかによって慰謝料(を得られる現実性)に大きな差が出てくる可能性があります。

こちらでは、具体的にどのような面で金額の差が出るのかを解説していきます。

支払われる慰謝料の違い

自賠責保険と任意保険とでは、交通事故被害者に対して支払われる慰謝料で差が出てきます。

自賠責保険は人身事故のみの補償となっていて、物損事故の補償(修理費など)は一切ありません。

ただし、人身事故で支払われる賠償項目に違いはありません。

たとえば、ケガをした場合、自賠責保険、任意保険のどちらに請求する場合でも、治療費、付添看護費、入院雑費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料を請求できます。

慰謝料請求の内訳

請求できる項目 被害者請求
傷害 治療費 実費を請求することができます。
付添看護費 医者の指示などがあれば,日額の規定額~実費分程度が認められる可能性があります。
入院雑費 一日につき、規定額が認められる可能性があります。
通院交通費 自家用車ならガソリン代(15円/km)
公共交通機関なら妥当な実費
休業損害 事故によって仕事を休み、収入が減った場合に支払われます。
入通院慰謝料 症状固定までの入通院した期間により、金額が定まります。
後遺障害 逸失利益 後遺障害が認められたときに、その等級や年収などから計算式に基づき算定します。
後遺障害慰謝料 認定された後遺障害等級(1~14級)により金額が定まります。
死亡 葬儀費用 規定額または実費分程度。
香典返しは損害にはなりません。
死亡による逸失利益 事故がなければ得られたであろう収入を、計算式に基づき算定いたします。
死亡慰謝料 家族のどなたが亡くなったかにより金額が異なります。

上記の項目は、自賠責保険と任意保険のどちらでも請求可能ですが、支払い限度額や支払い金額の計算ルールがそれぞれ異なっています。

支払われる金額の違い

自賠責保険と任意保険とでは、請求できる項目は同じでも、限度額や計算方法が異なります。

まず、自賠責保険は交通事故被害に対する最低限度の補償を目的としており、上限金額が決められています。

詳細な金額としては下記のように定められています。

自賠責保険の補償内容と限度額

損害範囲 補償対象 限度額
傷害による損害 ケガにかかった治療費をはじめとする諸費用に対する補償 120万円
後遺障害による損害 ケガによる労働能力の低下および精神的苦痛に対する補償 4,000万円
死亡による損害 逸失利益のほか、葬儀費、慰謝料など 3,000万円

この上限額は、慰謝料だけの金額ではなく治療費や休業損害などの損害賠償の総額となっており、傷害分であれば、看護料金、入院時の雑費なども含めて120万円が上限となります。

損害が上限金額を上回った場合、超過分が加害者の自賠責保険から支払われることはありません。

加害者に直接請求することはもちろん可能ですが、一般的に言えば自動車保険未加入の加害者から十分な賠償を得られることは望み薄であるといえます。

交通事故の相手方が任意保険加入をしている場合は、自賠責保険の金額に上乗せする形で補償が支払われます

任意保険の場合、加害者本人に請求する場合とは異なり、賠償請求をしても無視されるようなことはまずありませんし、上限金額がない無制限の保険と上限金額がある保険に分かれますが、上限がある場合でもその金額は数億円となっていることが多く、損害が上限金額を上回ることは滅多にありません。

そのため、自賠責基準よりも高い金額の慰謝料を支払ってもらえる可能性が高いといえるでしょう。

加害者の保険会社との交渉になるため、弁護士など専門家に依頼し、正しい計算を行ってきちんと示談交渉をしていく必要があります。

自賠責保険における損害賠償の計算方法や、任意保険から支払われる慰謝料の相場などは下記でご確認ください。

交通事故の示談交渉は弁護士に相談を

交通事故被害に遭った際に、加害者である相手方から慰謝料の支払いをしてもらうにも相手方の保険会社の状況によって進め方や金額が異なってくることがお分かりいただけたと思います。

交通事故の相手方が「自賠責保険のみ加入している」のか「任意保険にも加入している」かによって、交渉相手や現実的に賠償を期待できる金額が異なるため、どちらの状況であるのか、必ず確認をしましょう。

また、任意保険会社に対して請求するか、加害者本人に請求するかを問わず、裁判基準で正当な金額を支払ってもらうためには、必要書類を不備が無いように整えたり、正確な慰謝料計算をしたりする必要が出てきます。

弁護士に相談をして事故被害者の示談金交渉の進め方や入通院に関するアドバイス、後遺障害の申請サポートなどを依頼すると、治療に専念できスムーズに問題解決できる可能性が高まります。

適切な慰謝料を受け取るためにも、弁護士への無料相談をおすすめします。