交通事故で脊髄損傷になった際の後遺障害の認定や慰謝料の請求

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交通事故で脊髄損傷になった際の後遺障害の等級や損害賠償について

「交通事故によって脊髄損傷をしてしまったが慰謝料はどう請求したら良いか?」、「脊髄損傷での後遺障害の等級認定はどうなるのか?」、「今後の生活はどうしたらよいのだろう?」など、交通事故によって脊髄損傷を負ってしまった方やケガを負った方のご家族は不安で悩んでいるケースが多いのではないでしょうか。
こちらの記事では、交通事故で脊髄損傷になった際の後遺障害の等級について、損害賠償についてなどを記載していきます。

交通事故による脊髄損傷

交通事故によって脊髄損傷を負った場合、両手・両足の自由が効かなくなってしまうなど、生活に重大な支障をきたしてしまうケースが多くあるのが現実です。

そもそも脊髄とは身体でどのような役割を果たしているのか、脊髄損傷をしてしまう事故のケースにはどのようなものがあるのか、みていきましょう。

脊髄とは?脊髄損傷とは?

脊髄とは、脳と身体を繋ぐ神経の束(中枢神経)で、頭蓋骨から繋がっている脊柱(背骨)に守られるかたちで身体を上下に貫いています。

脳からの信号を身体の他の部位に伝達する運動神経や、身体の各部位(末梢神経)からの信号を脳へ伝える感覚神経が含まれている極めて大切な神経です。

脊髄損傷とは、交通事故などで脊柱管(背骨)が保護していた脊髄に外部からの強い力が加わった結果、圧迫・断裂などが生じて脊髄に損傷を受けることです。

損傷を受けることで、身体の麻痺や強い痺れ、排尿排便障害などを起こします。

また、脳と同じ中枢神経である脊髄は、末梢神経とは異なり、一度傷ついてしまうと修復や再生することはありません。

つまり、脊髄損傷によって生じた手足の麻痺などの症状は基本的には完治しないことを意味しています。

診断書には、頸髄損傷、胸髄損傷、腰髄損傷、中心性脊髄損傷といった傷病名が記載されることもありますが,これらはいずれも脊髄損傷に該当します。

なお、脊髄損傷と交通事故でよく見られる症状である頸椎捻挫(いわゆるむちうち)との違いとして、むちうちは骨やその中の脊髄そのものの損傷ではなく、頸椎を支えている靭帯や筋肉を損傷している状態をさします。

交通事故で脊髄損傷をしてしまうケース

脊髄損傷は、脊柱(背骨)に大きな力が加わり、脊髄を損傷することによって起こります。

事故の衝撃で脊髄損傷してしまうケースだけでなく、数時間から数日ほど経って脊髄損傷となるケースもあり非常に注意が必要です。

交通事故では、バイク事故によって脊髄を損傷してしまうケースが多いです。

理由は、身体が露出している状態で衝撃を直接受けてしまうからです。

その他にも、骨折による圧迫や衝撃による断裂、脊椎・椎骨の脱臼、椎骨をつなぐ靭帯のゆるみなどによって脊髄損傷が起きる可能性はあります。

いずれも、交通事故による強い衝撃によって、脊髄損傷を起こす可能性があります。

脊髄損傷の症状・麻痺

脊髄損傷の具体的な症状や麻痺について

脊髄損傷の症状にはどのようなものがあるでしょうか?

また、脊髄損傷によってどの部位がどのように麻痺してしまうのでしょうか?

こちらでは、脊髄損傷の具体的な症状や麻痺について解説していきます。

脊髄損傷の症状

脊髄損傷には、完全損傷と不完全損傷があります。

完全損傷は、脊髄が横断的に離断して末梢神経への伝達機能が完全に断たれてしまうことをさします。

不完全損傷は、脊髄が過屈曲・過伸展によって損傷し、一部伝達機能が残存する状態をさします。

脊髄損傷によって、主に感覚・運動機能・筋力の喪失が出現します。

具体的には、下記のような症状が出現します。

  • 運動機能の消失・障害
  • 感覚の消失
  • 体温調節機能困難
  • 代謝機能困難
  • 排泄障害

完全損傷の場合には、脳からの信号が断たれるため、四肢・体感の運動機能が消失します。

また、各部位から脳への感覚情報も送れなくなるため、感覚機能も消失します。

不完全損傷の場合には、麻痺・痺れが生じます。

また、筋力低下もするため運動機能に障害が出たり、知覚過敏や異常知覚などの知覚障害を併発もするケースもあります。

脊髄損傷による麻痺

脊髄損傷によって麻痺が残ってしまった場合、麻痺の範囲や麻痺の程度に応じて後遺障害等級の認定基準が変わります。

まず、脊髄損傷により起きた麻痺の範囲は、下記のように4つに分類されます。

麻痺の範囲 説明
四肢麻痺 両方の上肢と下肢の麻痺および骨盤臓器に麻痺や機能障害を残す状態
片麻痺 片方の上肢と下肢の麻痺や機能障害を残す状態
対麻痺 両方の上肢または両方の下肢の麻痺および骨盤臓器に麻痺や機能障害を残す状態
単麻痺 上肢または下肢の一肢の麻痺や機能障害を残す状態
麻痺の範囲の図解(四肢麻痺・片麻痺・対麻痺・単麻痺)

次に、脊髄損傷の麻痺の度合いです。

麻痺の程度は3段階で表され、運動性・支持性、基本動作、上肢、下肢の4つの区分に分けられます。

麻痺の程度は後遺障害等級の認定の際に、等級を判断する材料となり、どの範囲にどの程度の麻痺が生じているのかによって後遺障害等級の認定内容が変わってきます。

また、麻痺の範囲と程度に加えて、周囲の介護の必要度や画像所見、神経症状テストも後遺障害等級の認定では考慮されます。

麻痺の程度が高
麻痺の程度
区分 運動性・支持性 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われている状態。
基本動作 障害のある上肢または下肢の基本動作(物を持ち上げて移動、立つことや歩行すること)ができない状態。
上肢 完全強直またはこれに近い状態。
三大関節および5つの手指のいずれの関節も動かせない、またはこれに近い状態。
随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができない。
下肢 完全強直またはこれに近い状態。
三大関節のいずれの関節も動かせない、またはこれに近い状態。
随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失った。
認定される
後遺障害等級
介護を要する後遺障害1級または2級
麻痺の程度が中
麻痺の程度
区分 運動性・支持性 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態。
基本動作 障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限がある。
上肢 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500グラム)を持ち上げることができない。または障害を残した一上肢では文字を書くことができない。
下肢 一下肢の障害により、杖もしくは硬性装具なしで階段を上ることができない。または両下肢の障害により、杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難。
認定される
後遺障害等級
運動性・支持性、基本動作:介護を要する後遺障害1級または2級、後遺障害3級
上肢、下肢:後遺障害5級
麻痺の程度が低
麻痺の程度
区分 運動性・支持性 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が多少失われている状態。
基本動作 障害のある上肢または下肢の基本動作を行う際の巧緻性および速度が相当程度損なわれている。
上肢 障害を残した一上肢で文字を書くことに困難を伴う。
下肢 日常生活はおおむね独歩であるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく速度も遅い。両下肢の障害により杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができない。
認定される
後遺障害等級
後遺障害7級

脊髄損傷での後遺障害等級と慰謝料

脊髄損傷をすると、生活にも大きな影響を及ぼす可能性があり、事故前と同じ生活が送れなくなってしまう人も多くいます。

そのため、後遺障害慰謝料と逸失利益がどの程度受け取れるかというのは大変重要なポイントになるでしょう。

こちらでは、脊髄損傷で認定される後遺障害等級と、認定後に支払われる逸失利益について解説していきます。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、事故によって負ったケガが後遺症として残存してしまった際に、後遺障害等級が認定されると、認定された等級に応じて受け取ることのできる慰謝料です。

脊髄損傷によって認定される可能性がある後遺障害等級と認定基準、裁判基準の後遺障害慰謝料は以下のとおりです。

等級 認定基準 後遺障害
慰謝料
介護を要する
後遺障害1級1号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要する 2,800万円
介護を要する
後遺障害2級1号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要する 2,370万円
後遺障害3級3号 生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができない 1,990万円
後遺障害5級2号 極めて軽易な労務にしか服することができない 1,400万円
後遺障害7級4号 軽易な労務にしか服することができない 1,000万円
後遺障害9級10号 通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約される 690万円
後遺障害12級13号 通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合がある 290万円

こちらの表と麻痺の度合いでご紹介した表を照らし合わせると、どのような麻痺が残ると後遺障害慰謝料がいくらになるか把握することができます。

ただし、加害者の保険会社は裁判基準よりも低額の任意保険基準の金額で慰謝料を提示してきますので、示談交渉や裁判で増額を求めていく必要があります。

逸失利益が支払われるケース

逸失利益とは、将来得られるはずだった収入が後遺症を負ったことによって得られなくなってしまった分の補償のことをさします。

脊髄損傷によって後遺障害が残った場合、その後の労働に大きな影響をおよぼすケースは多く、たとえば、交通事故による脊髄損傷で重度の後遺障害が残ったら、この先、仕事に就くことが難しいケースもありますし、立ち仕事をしている人は、下半身の麻痺が残ってしまったら、今の仕事は続けられなくなります。

このようなケースで、将来の収入の補償として支払われるのが逸失利益です。

逸失利益の計算には下記の式を使用し、労働能力喪失率は後遺障害の等級別に定められています。

逸失利益の計算式

基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

労働能力喪失率

等級 労働能力喪失率
1級1号 100%
2級1号 100%
3級3号 100%
5級2号 79%
7級4号 56%
9級10号 35%
12級13号 14%

このように、後遺障害等級によって労働能力喪失率が変わり、それによって逸失利益の金額も変わりますので、適切な逸失利益を受け取るためには、妥当な後遺障害等級の認定をされることがカギとなります。

逸失利益の計算について詳しくは下記をご確認ください。

脊髄損傷による事故後の対応は弁護士に相談

脊髄損傷を負った場合、今後の生活に大きな支障をきたしてしまう可能性が高いでしょう。

脊髄損傷は生涯にわたって日常的に介護が必要となる方もいる大きなケガです。

それだけに、適切な慰謝料を受け取ることが大切です。

特に後遺障害慰謝料と逸失利益は、後遺障害の認定等級によって受け取れる金額が大きく変わります。

適切な資料を集めながら後遺障害等級の認定申請準備をする必要があります。

ただでさえ、脊髄損傷という大きなケガを負いながら示談に向けての準備をするのは大変困難でしょう。

弁護士であれば、後遺障害申請のサポート含め相手方保険会社との示談交渉サポートの実施ができます。

また、弁護士が示談交渉をする際には、慰謝料の算出で1番高い基準額である裁判基準で交渉を進めることができ慰謝料の増額が期待できます。

今後の生活を考えて専門家である弁護士に相談をしてみてください。