高次脳機能障害の慰謝料と等級認定。事故後にみられる行動や性格の変化

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高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは、交通事故で負った脳の損傷などで記憶障害が残ったり、人格が変化してしまったりする後遺症です。日常生活に大きな支障をきたす後遺症が残る場合もあれば、ご本人でも気づかないような些細な変化が残る場合もあります。
ご家族の方は、事故前と比べて被害者の方の行動や性格に変化が出ていないか注意してみてください。
現在治療中であれば、高次脳機能障害で後遺症が残った場合の後遺障害の等級認定や慰謝料について確認をしておくことも大事です。

高次脳機能障害の原因は?

脳の損傷による高次脳機能障害

高次脳機能障害は、脳の損傷で発症する後遺症です。

脳の血管が詰まる(脳血管障害)、外部から強い力が急激に加わって脳が損傷する(外傷性脳損傷)、脳の酸素が不足する(低酸素脳症)などが原因で、交通事故では主に外傷性脳損傷によって発症します。

なお、病院では、高次脳機能障害ではなく、脳挫傷、くも膜下出血、びまん性脳損傷などと診断されます。

考えること、覚えることが苦手になる?

脳の機能 詳細
一次機能 「光や音を脳に伝える」、「手足を動かす」などを行う。
高次脳機能 一次機能で得た情報をもとに、「理解する」、「記憶する」、「行動する」などのことを行う。

脳の働きは、上の表のように一次機能と高次脳機能に大きく分けることができます。

高次脳機能障害が残ると、高次脳機能で今まで行ってきた「考えて行動をする」、「物事を覚える」などができなくなったり、苦手になったりしてしまいます。

これらの変化は、事故被害者自身ではご本人でも気がつかない恐れがあります。

交通事故後にご家族が異常を感じたら、本人に伝え、早めに病院で診察や検査を受けるようにしてください。

支払われる慰謝料の金額

後遺障害等級 裁判基準 相場
第1級(要介護) 2800万円 2240万円〜2800万円
第2級(要介護) 2370万円 1900万円〜2370万円
第3級 1990万円 1590万円〜1990万円
第5級 1400万円 1120万円〜1400万円
第7級 1000万円 800万円〜1000万円
第9級 690万円 550万円〜690万円
  • 裁判基準は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」を参照。
  • 相場は裁判基準の8割から10割で算出しています。

後遺障害等級の認定を受けることで相手保険会社に後遺障害慰謝料を請求できるようになります。

上の金額は、高次脳機能障害で認定される後遺障害等級と、支払われる後遺障害慰謝料の金額です。

裁判基準の金額は裁判をした場合に認められます。

示談交渉の場合は、相場程度の金額で示談をすることが多いです。

ただし、保険会社が最初から相場の慰謝料が提示してくることは滅多にありません。

慰謝料が数百万円増額されることがありますので、適切な金額の後遺障害慰謝料を受け取れるように交渉を重ねましょう

また、高次脳機能障害が原因で今後の収入が減ってしまう場合は逸失利益も請求できます。

こちらも難しい交渉となりますので、高次脳機能障害が残ってしまった場合は弁護士に相談して慰謝料請求することをおすすめします。

高次脳機能障害で見られる症状

高次脳機能障害の主な症状

等級認定を受けて後遺障害慰謝料を受け取るにはどうすればいいのか、高次脳機能障害の症状と後遺障害認定について確認をしていきましょう。

まずは、高次脳機能障害が残った時の症状をより詳しくご説明していきます。

高次脳機能障害では、日常生活で「集中力がなくなり本を最後まで読めなくなる」、「ご飯を食べたか忘れてしまう」などの症状がみられ、「事故以前は温厚だった人が怒りやすくなってしまった」など、性格が変わってしまうこともあります。

これらの症状は記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害、失語症・失行症・失認症に分けることができ、具体的には下記のようなさまざまな症状がみられます。

記憶障害

  • 道がわからなくなってしまう
  • 少し前にしたことを忘れてしまう
  • 昔のことを思い出せなくなる
  • 事故後のことが覚えにくくなる

など

注意障害

  • 集中力が散漫になる
  • 疲れやすくなる
  • 周りで起こったことに気がつかなくなる
  • 同じことを何度も言ってしまう

など

遂行機能障害

  • 計画を立てられなくなる
  • 計画通りに物事を進められなくなる
  • 臨機応変な対応ができなくなる

など

社会的行動障害

  • ボーッとするようになる
  • 怒りやすくなる
  • 情緒不安定になる
  • 子どもっぽくなる
  • 会話が噛み合わなくなる

など

失語症・失行症・失認症

  • 言葉が出てこなくなる
  • 言い間違えが多くなる
  • やり方がわからなくなる
  • 物を理解できなくなる

など

後遺障害等級はどう認定される?

後遺障害等級 詳細
第1級(要介護) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第2級(要介護) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
第3級 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
第5級 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第7級 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第9級 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
  • 「自賠法施行令別表第1および第2」より

高次脳機能障害では、後遺症の程度に応じて6つの後遺障害等級が設けられています。

検査の結果や症状などで判断され、下記のいずれかに該当すると後遺障害等級が認定される可能性があります。

  1. 事故発生時の頭部画像で頭部外傷の診断があったこと
  2. 初診時に重い意識障害(半昏睡や無反応など)が6時間以上あった
  3. 事故発生から1週間以上、軽い意識障害があった
  4. 医師により高次脳機能障害、脳挫傷などの診断がされていた
  5. 知能検査、記憶検査などの検査で異常が認められた

このうち、頭部のCT、MRIなど、画像検査で高次脳機能障害に繋がる脳の損傷を確認できるかが重要視されます

ただし、高次脳機能障害が疑われる症状が出ていても画像検査では脳の損傷を確認できないこともあります。

また、「こういう症状があれば何級」と具体的に決まっているわけではありません。

そのため、正しい等級認定を受けるのがとても難しい後遺障害と言われています。

もし、納得できない認定結果だった時は、後遺障害の異議申立てを検討しましょう。

異議申立てによって後遺障害等級が変わることもあります。

解決までの示談は長くなりますが、異議申立てに成功すれば、慰謝料の金額も大きく変わります。

高次脳機能障害がむちうちと判断される?

高次脳機能障害では、比較的症状が軽く、後遺症が残っても日常生活への影響が少ないこともあります。

このようなケースでは後遺障害申請で高次脳機能障害を認めてもらえず、むちうちと同じ後遺障害等級12級や14級が認定されることがあります。

医師に軽度外傷性脳損傷(MTBI)を発症していると言われていた場合は特に注意が必要です。

MTBIは、むちうちが原因で脳に負担をかけてしまう症状のことで、高次脳機能障害の同じような症状を感じるのですが、後遺障害申請ではむちうちとしか認定されず、自覚症状と認定結果が大きくズレてしまうことがあります。

高次脳機能障害の手続きは困難が予想されます

ここでご説明した高次脳機能障害の症状がみられ、まだ検査などを受けていない事故被害者の方は、今からでも病院で検査を受けてください。

後からでも、後遺障害認定を受けられる可能性があります。

また、高次脳機能障害の手続きは困難が予想されますので、後遺障害等級の申請を行う際や異議申立てを行う際は、弁護士に相談して行いましょう。

必要な検査のアドバイスや申請のサポートを受けられ、正しい等級認定を受けられる可能性が高まります。

また、異議申立ての際は認定結果が妥当か、時間をかけてでも異議申立てを行うべきかなどを判断してもらうことができます。

弁護士のサポートを受けて、後遺障害認定と慰謝料請求で後悔のない結果を目指しましょう。