高次脳機能障害の治療やリハビリ方法。後遺障害認定のポイントは?

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高次脳機能障害の治療とリハビリ

物忘れ、集中力の低下、計画を立てられない…、高次脳機能障害が残ると、これまで当たり前のようにできていたことができなくなってしまいます。後遺症を抱えてこれから生活していくには、ご家族や周りの理解と適切な補償が必要です。
高次脳機能障害を抱える事故被害者の方とご家族に必要な、治療、リハビリ、後遺障害認定、慰謝料請求、障害年金に関するご説明いたします。

高次脳機能障害の主な症状

高次脳機能障害は、交通事故にあった際に頭を強く打ち、脳を損傷した場合に残ることがある後遺症です。

医師からは、脳挫傷や外傷性クモ膜下出血、びまん性軸索損傷などと診断されます。

高次脳機能障害が残ると、日常生活で当たり前のようにできたいたことができなくなった、事故以前と性格が変わってしまったなどの変化がみられるようになります。

高次脳機能障害でみられる主な症状

  • すぐに物事や約束を忘れるようになった
  • 昔のことを思い出せなくなった
  • 新しい物事を覚えられなくなった
  • 集中力がなくなった
  • 複数の作業を同時に行えなくなった
  • 疲れやすくなった
  • 怒りやすくなった など

高次脳機能障害は治る?治療とリハビリの方法

高次脳機能障害の症状が見られ、心配になるのが、症状が改善されて治ることがあるのかということ。

これに関しては、高次脳機能障害には明確な完治はありません

後遺症の症状と付き合いながら、回復を目指してリハビリを行うことになります。

リハビリによって、社会復帰や日常生活を取り戻すことができたケースはたくさんあります。

高次脳機能障害では、事故当初は脳外科などで診察を受け、リハビリは、高次脳機能障害のリハビリに対応した専門の医院で行います。

リハビリを受けることができる施設は各都道府県にあり、「国立障害者リハビリテーションセンター」のWebサイトに相談窓口が記載されています。

高次脳機能障害で行うリハビリ

高次脳機能障害のリハビリは、1.症状を治すためのリハビリ、2.安心して日常生活を過ごすためのリハビリ、3.社会復帰するためのリハビリの3つに分けられます。

症状を治すためのリハビリでは、「医学的リハビリテーションプログラム」に沿って、医師の指示のもと、症状に応じてさまざまな訓練を行います。

日常生活のリハビリは「生活訓練プログラム」があり、スケジュール管理やグループ内でのコミュニケーションなどが円滑に行えるようになるための訓練を行います。

社会復帰のリハビリには「就労移行支援プログラム」があります。

事故以前の仕事ができなくなってしまった場合に、被害者の方の状態や意欲などを確認したうえで職場体験や技能習得を行い、その後の就職活動のサポートも受けることができます。

高次脳機能障害の後遺障害認定で大切なことは?

後遺症申請は専門医の受診などが大切

高次脳機能障害では、症状の程度によって6つの後遺障害等級が定められています。

しかし、高次脳機能障害で後遺障害等級の認定を受けることは簡単ではありません。

「症状がこの程度なら後遺障害何級」という具体的な基準がなく、自覚症状と認定結果にズレが生じるケースも多いです

また、高次脳機能障害の原因となる脳の損傷が画像検査で確認できないこともあります。

そのため、想定していた後遺障害等級の認定が受けられないことや、認定結果が非該当になってしまうこともあります。

等級認定の結果で、賠償金額が大きく変わりますので、後遺障害申請の結果はとても重要です。

申請時のポイントを3つご説明します。

1.画像検査は専門の病院で

後遺障害の等級認定では、画像検査の結果で後遺症が確認できること(他覚症状があること)がとても大切です。

したがって、MRI検査CT検査といった画像検査を必ず受けるようにしてください。

その際には、各都道府県にある専門の病院で検査を受けるようにしましょう。

高次脳機能障害は、医学の中でも特に専門的な知識を必要とする後遺症で的確な判断をできる医師が限られるため、高次脳機能障害に精通した専門の医師に診てもらうのがベストです。

2.事故直後の症状や医師の診断も重要

先ほどもお伝えしましたが、画像検査で脳損傷が確認できないケースもあります。

画像検査で異常が見つからないと後遺障害等級が認定されないとは限りませんので、検査結果だけで判断をしないようにしましょう

画像検査以外では、事故当時に見られた症状や、医師の診断内容も重要となります。

具体的には、「初診時に重い意識障害(半昏睡や無反応など)が6時間以上あった」、「事故発生から1週間以上、軽い意識障害があった」、「医師により高次脳機能障害、脳挫傷などの診断がされていた」、「知能検査、記憶検査などの検査で異常が認められた」などがあると、後遺障害等級が認定されやすくなると言われています。

3.自覚症状を日常生活報告書で伝えましょう

事故直後から等級認定時までの自覚症状を伝えることも大切です。

自覚症状は、「日常生活報告書」を作成して認定機関に伝えます。

事故前と比べて、どのような変化があったのか、箇条書きなどで構いませんので、気づいた時にメモするようにしておくと、作成時に便利です。

被害者本人が後遺症に気がつかず、ご家族や周りの方から見て違和感を感じていることがあれば、それも日常生活報告書に記載するようにしてください。

画像検査で高次脳機能障害を確認できない場合は、日常生活報告書で判断される可能性もありますので、些細なことでも漏らさずに記載するようにしましょう

これらのポイントを踏まえ、後遺障害申請を行うには、弁護士などの専門家のサポートが不可欠です。

治療中から弁護士に相談し、被害者請求で後遺障害申請を行うことをおすすめします。

また、すでに認定が出ていて、その結果に納得できない場合は、後遺障害の異議申し立てを検討しましょう。

異議申し立てを行う際も、弁護士が持つ専門知識や経験が役に立ちます。

慰謝料請求、示談交渉のポイントは?

記憶障害や行動障害が残ったことによるショックはとても大きいものだと思います。

交通事故以前のように仕事ができなくなり、将来の収入に影響もあるでしょう。

その中で、これからの生活の不安を少なくするためには、慰謝料請求で適切な賠償金を受け取ることが欠かせません

そのためには時に次の2つのことを意識してください。

等級認定の結果にこだわる

まず大事にしてほしいのが後遺障害認定です。

先ほどからお伝えしているように、高次脳機能障害の後遺障害認定は大変で、自覚症状にそぐわない認定結果となってしまうこともあります。

それを、簡単には「仕方ない」としないでください。

高次脳機能障害では、後遺障害等級が異なると、後遺障害慰謝料と逸失利益の金額が数百万円も異なることが珍しくありません。

保険会社は認定結果が出てすぐに示談交渉を始めようとすることがありますが、すぐ示談交渉をはじめず、「本当にこの後遺障害等級が正しいのか」を考え、納得できない場合は異議申し立てを行うことを検討しましょう

後遺障害等級の認定や異議申し立てについては、下記の記事をご参考ください。

相場の後遺障害慰謝料と逸失利益を受け取る

後遺障害等級の認定を受けると、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できるようになります。

この2つの補償は、この先、後遺症を抱えながら生活していくことに対して支払われる大切なお金で、高次脳機能障害では、ほかの補償(入通院慰謝料や休業損害など)よりも高額になりやすいです。

しかし、保険会社は提示してくる後遺障害慰謝料や逸失利益は相場以下のケースが多くなっています。

裁判基準の金額をもとに計算して示談交渉を行い、相場の賠償金を受け取りましょう。

後遺障害慰謝料と逸失利益の金額、計算方法については、下記の記事をご参考ください。

障害者手帳、障害年金で受けられる支援

支援制度を利用し生活の負担を軽減

高次脳機能障害では、慰謝料の請求以外に障害者手帳の交付や障害年金の受給などの支援制度を利用することができます。

障害者手帳による支援

高次脳機能障害では、「精神障害者保健福祉手帳」の交付を受けることができる可能性があり、障害者手帳があると、税金の免除や公共交通機関の運賃割引などを受けることができます。

申請は、市区町村の窓口から行い、ご家族が代理で申請することも可能です。

申請時には、病院での診断書などが必要となり、症状の程度に応じて1級から3級の等級が認定される可能性があります(この等級は後遺障害等級とは無関係です)。

手帳の有効期間は2年間で、都度、更新手続きを行う必要があります。

障害者手帳で受けられるサービスの一例

  • NHK受信料の免除
  • 所得税や住民税の控除
  • 鉄道、バス、タクシーなどの運賃の割引
    (対象外の鉄道、航空会社もあります)
  • 携帯電話料金の割引
  • 水道料金の割引
  • 福祉手当の支給 など

障害年金の支給

年金制度には、病気やケガなどで仕事や日常生活に支障が出た場合に、現役世代も含めて受給できる「障害年金」という制度があり、高次脳機能障害で障害年金を受給できる可能性があります。

障害年金には、国民年金に加入していた方が対象となる障害基礎年金と、厚生年金に加入していた方が対象となる障害厚生年金があります。

市区町村の窓口や年金事務所で申請ができ、支給される金額は、認定される等級や被害者の方のご事情によって異なります。

事故被害者のご家族の方へ

高次脳機能障害は、外傷がないことから後遺症がないように見られがちです。

そのため、会社や日常で周囲の方から後遺症に対する理解を得られず、被害者の方ご本人が辛い思いをされることが多々あります。

症状の程度にかかわらず、ご家族の方が献身的にサポートを行い、事故被害者の方の負担を軽減してあげてください

毎日一緒にいらっしゃるご家族だからこそ、事故以前との違いに気がつく場合もあります。

もし、事故前と様子が違う点があればメモに書き留めたり、ご本人に伝えたりするなどしましょう。

このような対応が、適切な後遺障害等級の認定や適切な賠償金の受け取りにつながります。

また、精神障害者保健福祉手帳の交付や障害年金の受給を申請する際は、一度ご家族で話し合うことをおすすめします。

障害者手帳の交付を受けることで、「脳に障害があることを自覚する」ことになり、被害者の方の性格次第で良い場合も悪い場合もあります。

金銭面のメリットだけでなく、ご本人のお気持ちも考え、ぜひ最善の選択をしてください。

弁護士のサポートを受けて不安を軽減しましょう

物忘れや集中力の低下は一見、交通事故と無関係と思ってしまいがちです。

でも、少しでも「おかしいな」と思ったら、高次脳機能障害を疑うようにしましょう

そして、被害者の方とそのご家族が、事故後の生活での不安を少しでも和らげることができるよう、弁護士のサポートを受けるようにしてください。

弁護士に後遺障害の等級申請や慰謝料請求を任せることで、対応の負担が減り、適切な賠償金の受け取りにもつながります。