大きな交通事故の被害にあうと、長期間の通院が必要となる場合があります。通院したことによる治療費や慰謝料は相手保険会社に請求することができますが、示談交渉では細かい金額の計算が必要となります。治療費や通院交通費のような補償は比較的金額を計算しやすい一方、慰謝料については計算が複雑になることも多いです。
ここでは3ヶ月程度の通院をする場合の慰謝料を、むちうちを例に確認しましょう。
交通事故における慰謝料の決め方
交通事故の被害にあった場合には、加害者(保険会社)に対して示談交渉で慰謝料を請求します。
示談というのは、裁判をしないで紛争解決をすることをいい、治療費、通院交通費、慰謝料、休業損害など、交通事故でケガをしたため発生したさまざまな損害に対する費用が支払われます。
これらの金額は当事者が合意できればその合意の金額で、合意ができない場合には最終的には裁判所に訴訟を提起して判決によって決定してもらうことになります。
交通事故における慰謝料に関する3つの基準
交通事故における慰謝料の計算については次の3つの基準があることを確認しましょう。
自賠責基準
自賠責基準は、自賠責保険の金額をもとにした基準です。
交通事故における最低限の補償をするための自賠責保険は、自動車に乗っている人は必ず加入する必要があり、交通事故にあったときには自賠責保険から一定程度の補償を受けることができます。
最低限の補償をするためのものなので、3つの基準の中では一番低い金額ですので、自賠責保険でカバーしきれない部分の慰謝料は、保険会社に請求していくことになります。
任意保険基準
保険会社ごとに社内で決められている基準額です。
任意保険基準の金額は公にされているものではありませんが、最低限の補償である自賠責保険基準よりはやや高く、後述する裁判基準よりも低いことがほとんどです。
保険会社としては、なるべく低い金額で示談できることに越したことはないので、実際に裁判をされた場合よりも低い金額が設定されています。
交通事故の被害者として適切な示談金を受け取るためには、この基準で示談をせずに、裁判基準で示談をする必要があります。
裁判基準
裁判をしたら認められる金額が裁判基準です。
弁護士が依頼者から依頼を受けて交通事故の示談交渉を行うときには、この基準にしたがって交渉を行うため、弁護士基準とも呼ばれています。
3つの基準の中では一番高額になるので、なるべく多くの慰謝料を獲得したいのであれば、この裁判基準で交渉する必要があります。
通院3ヶ月の慰謝料はどのように計算されるか
交通事故の被害者は時間を割いて入院や通院を余儀なくされます。
ケガをしたことや入院と通院を続けることによって受けた精神的な苦痛に対して入通院慰謝料が支払われます。
それでは3ヶ月通院した場合の入通院慰謝料はいくらになるかを確認しましょう。
自賠責基準
自賠責保険においては、「入通院期間×4,300円」で計算して慰謝料を求めます(2020年3月31日以前の事故は4,200円)。
入通院期間は、「1.治療期間(最初に入院・通院した日から最後に通院した日までの日数)」、または「2.実治療日数(入院期間+実通院日数)×2」のうち、小さいほうの数字を当てはめて計算を行います。
たとえば、事故日から3ヶ月(90日)治療を行って、そのうち実際に35日入通院したとしたら、「実治療日数(35日)×2=70日<治療期間(90日)」となり、数値が小さいほうの実治療日数(70日)で計算を行います。
その結果、「70×4,300円=301,000円」が自賠責基準での通院3ヶ月の慰謝料となります。
なお、診断書の治療最終日が治癒見込、中止、転医、継続のいずれかになっている場合には、治療期間の日数につき治療最終日に7日が加算されます(7日加算といわれるものです)。
任意保険基準
任意保険基準では保険会社ごとに基準が異なり、その金額は公にはされていません。
ただし、任意保険会社はかつて旧任意保険支払基準というものを利用して計算しており、今もこの金額に準拠して任意会社基準を設定していると言われているため、この基準を目安にすることができます。
旧任意保険支払基準によると、通院のみの場合と入院もしている場合で金額が変わり、下記のとおりとなります。
入院・通院 | 慰謝料の金額 |
---|---|
通院3ヶ月 | 378,000円 |
入院1ヶ月・通院2ヶ月 | 504,000円 |
入院2ヶ月・通院1ヶ月 | 630,000円 |
入院3ヶ月 | 756,000円 |
裁判基準
裁判基準については、過去の交通事故案件の積み重ねからおおむねの基準が出来上がっていて、その基準は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という交通事故の専門書にまとめられており、金額は下記のとおりとなります。
むちうちは通院のみのケースが多いですが、下記の表と任意保険基準の表で金額を比べると15万円以上の金額差があります。
他覚症状(画像所見など)のない軽傷(むちうち、捻挫など)の場合
入院・通院 | 慰謝料の金額 |
---|---|
通院3ヶ月 | 530,000円 |
入院1ヶ月・通院2ヶ月 | 690,000円 |
入院2ヶ月・通院1ヶ月 | 830,000円 |
入院3ヶ月 | 920,000円 |
骨折などの重傷の場合
入院・通院 | 慰謝料の金額 |
---|---|
通院3ヶ月 | 730,000円 |
入院1ヶ月・通院2ヶ月 | 980,000円 |
入院2ヶ月・通院1ヶ月 | 1,220,000円 |
入院3ヶ月 | 1,450,000円 |
通院3ヶ月で後遺障害慰謝料は支払われる?
慰謝料は、入通院慰謝料のほかに後遺障害慰謝料も支払われる可能性があります。
後遺障害慰謝料の支払いを受けるには、後遺障害等級の認定を受ける必要がありますが、後遺障害等級の認定には通院期間も影響すると言われています。
たとえば、むちうちで後遺障害等級の認定を受けるには、治療期間が6ヶ月以上必要だと言われています。
そのため、通院3ヶ月で治療を終了した場合、痛みやしびれなどの後遺症が残っていたとしても後遺障害等級の認定を受けられず、後遺障害慰謝料を受け取れない可能性が高いです。
症状が残っているなら3ヶ月で治療を終了しない、保険会社から治療費の打ち切りを打診されても安易に応じないことが大切となってきます。
保険会社から治療費の打ち切りを打診された際の対応については、下記の記事をご覧ください。
通院3ヶ月の慰謝料を減らされないコツ
交通事故被害で慰謝料をきちんと受け取るには、被害者が気をつけることがいくつかあります。
慰謝料を減らされないためのコツとして次のことをご紹介します。
通院はきちんと継続すること
まず、通院をきちんと継続しましょう。
入通院慰謝料の金額は治療期間によって決まってきますので、医師の指示がある限りは面倒でも通院をしてください。
途中で自主的に通院をやめるようなことがあると、保険会社が「ケガは治った」と判断して早めに治療の終了を判断することもあります。
また、むちうちだと、通院3ヶ月頃を目安に治療費の打ち切りを迫られることがあるのですが、症状があり医師の指示があるうちは保険会社の要望を聞かずにきちんと通院しましょう。
裁判基準で示談交渉をする
慰謝料の金額を決める際は、ほかの損害と一緒に保険会社から提示され、示談交渉がはじまります。
保険会社は任意保険基準の金額を提示してきますが、その金額で決定ではありません。
裁判基準で計算し直して保険会社に増額を求めていきましょう。
示談交渉で困ったら弁護士に相談
保険会社との示談交渉は、慰謝料のみ行えば良いわけではありません。
入院や通院で働けなくなった場合には、休業損害を求めることも併せて行わなければなりません。
過失がついている場合には、過失割合の交渉も必要となります。
また、保険会社の担当者は交通事故の損害賠償のプロで、増額交渉に簡単には応じてくれないことも多いです。
「何を交渉すればいいかわからない」、「保険会社が増額を認めてくれない」など、慰謝料請求で困ったことがあれば、弁護士へのご相談をおすすめします。
弁護士に依頼をすれば、法律知識でのサポートはもちろん、交渉も任せられるので、治療や日常生活を取り戻すことに専念ができます。
特に弁護士費用特約に加入されている場合、通院3ヶ月での慰謝料請求なら、特約で弁護士費用をまかなえることがほとんどですので、弁護士への依頼を積極的にご検討ください。