交通事故でPTSDの症状がみられた時の慰謝料と後遺障害等級

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交通事故によりPTSDを発症してしまった場合の慰謝料や後遺障害の等級

交通事故の被害に遭い、その恐怖体験が引き金になって精神的に不調に陥ってしまうことがあります。これをPTSD(心的外傷後ストレス障害)と言い、精神疾患として位置づけされています。
交通事故被害によるPTSDの症状がある場合にも、その症状に応じて後遺障害認定を受けて、慰謝料などの賠償を請求できる可能性があります。
交通事故によりPTSDを発症してしまった場合の慰謝料はどのくらい請求できるのか、後遺障害の等級がどうなるのかなどを解説していきます。

PTSDとは

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、通常の範囲を超えた極端なストレスを体験した後に発症する病気です。

たとえば、死の危険に迫るような戦争、犯罪被害、虐待、自然災害、そして交通事故などの体験をしたあとに発症することがあります。

具体的な症状としては強い恐怖感や戦慄を感じたり、無気力に襲われたり、フラッシュバックや過呼吸が起こるなどです。

はじめに、PTSDが起こる原因や治療法などを説明していきます。

PTSDを発症する理由

PTSDの発症は、命が危険にさらされるほどの強烈な恐怖経験が原因になって引き起こされます。

  • 戦争の体験
  • 暴力被害、虐待、性犯罪被害などの犯罪被害を受けた体験
  • 自然災害または人工災害によって命の危険にさらされる体験
  • 交通事故の被害に遭い重大なケガを負った場合や九死に一生を得るような体験

このような強烈で衝撃的な体験を経験した場合に、PTSDを発症してしまうケースがあります。

PTSDの症状

PTSDを発症すると以下のような症状が出ます。

フラッシュバック

事件や事故のことなどを忘れたつもりでいても、ふとした瞬間に当時の恐怖体験や辛い感情などがよみがえってしまう状態です。

そのことにより、感情が不安定になる方もいるでしょう。

また、事件や事故を再体験しているようにリアルに思い出されることや同じ悪夢を繰り返し見てしまうという症状もあります。

過覚醒

「常にイライラしてしまう」、「ささいなことで驚いてしまう」、「警戒心が異常なほど強くなってしまう」、「不眠症状が出てしまう」など、過敏な状態が続く症状が出ます。

回避行動

「原因となった出来事を思い出すことを執拗に避ける」、「その出来事の重要な部分が思い出せなくなる」などの症状が出ます。

また、自分では気づかないうちに、思い出すきっかけになりそうなことを回避し、行動が制限されて日常生活に支障をきたすこともあります。

感覚麻痺

強烈な経験をした記憶に苦しむことを避けるために、感情・感覚が麻痺する症状が出ることがあります。

「人に心を許せなくなる」、「周りの人にこれまで抱いていた愛情を感じられなくなる」、「仕事や趣味への興味を失う」、「何をしていても楽しいと感じなくなってしまう」などの状態に陥ることもPTSDの症状のひとつです。

症状の継続

つらい体験の直後のみならず、事件や事故から1ヶ月経った後でも同じような症状が継続する、もしくは悪化してしまうこともあります。

また、食欲低下、落ち着きがなくなる、自分に価値がないと感じるなどのうつ状態の継続もPTSDが原因の可能性があります。

PTSDの治療方法

PTSDの治療は、精神科や心療内科で行います。

治療方法には、特定の症状を和らげるための対症療法とPTSDそのものの治療があります。

対症療法はPTSDによって引き起こされている各種の症状自体を抑えることを目的とする治療法です。

例をあげると、うつ状態・不眠・強い不安感の改善には、抗うつ薬・抗不安薬・精神安定剤などが治療に使われます。

また。PTSDそのものの治療は、下記のような精神療法(心理療法)が用いられることが一般的です。

持続エクスポージャー療法

医師などの治療者のサポートのもと、トラウマとなった場面をあえてイメージしたり、あえてこれまで避けていた記憶をよびおこすきっかけに身を置くようにしたりする治療法のことです。

思い出しても危険はない、怖いことはないと感じ取り、克服していく方法になります。

認知処理療法

考え方やこだわりを見直して別の視点で物事を考えるように導く方法です。

トラウマの経験を理解、整理して克服していく方法になります。

眼球運動脱感作療法

眼球を動かしながら、トラウマとなった経験を思い出し克服する方法です。

グループ療法

PTSDの患者同士が数名で自分の悩みを語り合う方法です。

交通事故でPTSDの症状が見られたら

交通事故によるPTSD症状が見られた場合の対処方法

交通事故によるPTSDは、死の危険が迫るような大事故ほど発症の可能性は上がりますが、どのような事故のケースであっても発症することがあります。

こちらでは、交通事故によるPTSD症状が見られた場合の対処方法をご説明していきます。

専門機関を受診する

交通事故に遭い、PTSDが疑われる症状がある場合、精神科を受診しましょう。

精神科では心の病気を全般的に扱っています。

PTSDはノイローゼなどと同じく神経症に分類されます。

精神科を受診すると、投薬による対症療法、認知行動療法をはじめとする精神療法などの選択肢の中で適切な治療を進めていくことができます。

投薬治療では、眠れない、不安が強い、うつ状態がある、生きている価値を感じられないなどの症状に対して治療薬を検討し投薬をしていきます。

認知行動療法では、医師などの専門家の立ち会いのもと、治療をしていきます。

また、症状によっては心理カウンセラーを紹介してもらえるケースもあります。

カウンセラーに話を聞いてもらいたい方や、どうしても精神科への受診に抵抗感がある方などは、臨床心理士や公認心理士などの資格を持っているカウンセラーに相談することもできます。

ただし、損害賠償請求をする際には必ず医師の診断が必要になるため、併用をして利用するのがよいでしょう。

まずは医療機関のホームページなどを確認し、PTSDの受診が可能かを問い合わせした上で進めていくことをおすすめします。

交通事故との因果関係を証明する

交通事故に遭い、PTSDを発症して治療を希望したとしても、交通事故とPTSDの因果関係が証明できないと、保険会社から治療費や慰謝料を支払ってもらうことは難しいです。

つまり、交通事故が原因でPTSDを発症したことを立証していく必要があります。

なぜその必要があるのか。以下で説明をしていきます。

症状が見られれば損害賠償請求できるわけではない

保険会社は、交通事故によって受けた損害に対して治療費や慰謝料を支払っているため、交通事故によって発症したことを証明できない症状に対してまで、損害の賠償をしてくれません。

骨折などのケガの場合は、基本的には「事故によってケガをした」という事故と傷害の因果関係が明らかですが、PTSDの場合は、事故後しばらく経ってから症状が現れることや、発症している本人も交通事故が原因だと気づかないこともあり、保険会社は「本当に交通事故が原因?」と疑いを持つことが多いです。

そのため、保険会社に治療費や慰謝料を支払ってもらうには、医学的な証拠などで、PTSDが交通事故によって引き起こされたと立証することが欠かせません。

PTSDで損害賠償請求していくには

交通事故に遭い、PTSDが発症した場合もしくはPTSDの疑いがある場合には速やかに医療機関を受診しましょう。

医師の判断のもと、現状出ている症状がPTSDなのか、どのように治療をしていくか方針を決めます。

もちろん、完治できればベストですが、PTSDは数年以上回復しないケースもあり、後遺症が残るケースもあります。

PTSDを発症した場合には、適切に治療を進めながら損害賠償の準備をする必要があるため、専門家である弁護士に損害賠償請求の手続きを依頼するとよいでしょう。

交通事故事件に強い弁護士であれば、PTSD発症の際の相手方保険会社との交渉方法や請求に必要な書類や進め方など熟知しています。

症状が出た本人は治療に専念するためにも弁護士に相談することをおすすめします。

PTSDで支払われる慰謝料、後遺障害等級

PTSD発症の際の慰謝料や後遺障害等級

PTSDは交通事故が原因で発症した証明できた場合、慰謝料はいくら支払われるのでしょうか?

また、PTSDの後遺障害の等級は認定されるのでしょうか?

こちらでは、PTSD発症の際の慰謝料や後遺障害等級について説明をしていきます。

因果関係が認められれば慰謝料請求できる

交通事故が原因でPTSDを発症していることが客観的に認められる場合は、症状の内容や、程度に合わせて受けた治療や後遺症が残り認定された後遺障害等級に応じた慰謝料が支払われる可能性があります。

入通院慰謝料は入院、通院の期間をもとに金額を計算し、後遺症が残り後遺障害等級の認定を受ければ後遺障害慰謝料も請求できます。

PTSDで認定される後遺障害等級

交通事故が原因でPTSDになり、後遺症が残った場合、後遺障害等級の認定を受けられる可能性があり、具体的には、どの程度日常生活や仕事へ影響が出るのかといった症状に応じて、9級10号、12級13号、14級9号のいずれかに認定される可能性があります。

しかし、PTSDなどの脳の損傷を伴わない精神的な障害を、非器質性精神障害とよびますが,このような非器質性精神障害は交通事故で残る後遺症の中でも後遺障害等級の認定を受けることが難しい後遺症のひとつと言われており、必ず後遺障害の認定を受けられるとは限らず、特に12級及び9級といった高位の等級を獲得するためには、適切な対応を取ることがとても重要となります。

事故による非器質性精神障害が後遺障害等級に認定されるためには、医師による診断、症状固定していること、そして事故との因果関係の証明が必要になります。

後遺障害等級 症状
9級10号 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
12級13号 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの
14級9号 通常の労務に服することはできるが,非器質性精神障害のため,軽微な障害を残すもの

非器質性精神障害で支払われる後遺障害慰謝料

交通事故が原因のPTSD等の非器質性精神障害で支払われる後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害等級によって変わります。

等級が重くなるほど、後遺障害慰謝料の金額は上がります。

PTSDで認定される可能性がある後遺障害第9級10号、第12級13号、第14級9号で支払われる後遺障害慰謝料の裁判基準額と相場は下記の通りです。

後遺障害慰謝料の裁判基準と相場

後遺障害等級 裁判基準 相場
9級10号 690万円 550万円〜690万円
12級13号 290万円 230万円〜290万円
14級9号 110万円 90万円〜110万円
  • 相場は裁判基準の8割から10割で算出したものです。

保険会社との示談交渉で後遺障害慰謝料の金額を決める際は、相場程度の金額が認められることが多いです。

慰謝料請求で裁判を起こした場合は、裁判基準の金額が認められる可能性があります。

後遺障害等級や慰謝料請求の相談は弁護士に

交通事故では、目に見えるケガだけではなく、うつ状態などのPTSDの症状を発症してしまうこともあります。

万が一、精神的な症状が現れた際でも適切な治療を行い、適正な慰謝料を請求していくことは可能です。

ただし、交通事故との因果関係を立証してきちんと治療費や慰謝料の支払いをしてもらい、後遺症が残る場合には後遺障害として等級の認定を受け、後遺障害分の慰謝料の請求もしていくことが必要になるでしょう。

適切な後遺障害等級の認定や慰謝料の請求をしていくためには、弁護士へのご相談をおすすめします。