交通事故に遭いケガをしてしまった場合、完治できればベストですが、何らかの後遺症の症状が残存してしまうことがあります。
とくに、骨折などによって上肢や下肢の関節に機能障害が残った場合には、今後の生活にも影響を及ぼすため、妥当な慰謝料を受け取ることが大切です。
妥当な慰謝料を受け取るためのポイントは、後遺症を後遺障害として申請して等級認定を受け、後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取ることです。
ここでは、骨折などによって関節の機能障害が残った際に認定される後遺障害等級や支払われる慰謝料について解説していきます。
関節の機能障害とは?
交通事故に遭い、骨折などのケガを負ってしまった際に、関節が曲がらなくなってしまうなどの症状が残ることがあります。
関節の機能障害とは、交通事故による骨折や、脱臼、筋肉・靭帯・腱・神経の損傷などが原因で、関節部位がケガをしていない側(健側と言います)と比べて曲がりにくいなど、動きに支障をきたすことをさします。
関節の曲がる範囲が狭まる、動きが悪くなってしまう状態のことを可動域制限といいます。
上肢(腕・肩・手首など)や下肢(股関節・膝・足首)の関節で、このような可動域制限が残ったら、後遺障害等級が認定される可能性があります。
関節の機能障害での後遺障害等級認定は、ケガをした関節の可動域がケガをしていない側と比較して、どの程度の可動域制限が発生しているかによって判断されます。
上肢・下肢の3大関節とは?
上肢とは、人間の腕や手のことです。
下肢とは、人間の足のことです。関節の動きに何かしらの後遺症が残り、後遺障害申請を行う際には腕や足ではなく、上肢、下肢と言うことがあります。
上肢の3大関節
上肢とは、肩・ひじ・手(手首)および手指の部分のことであり、肩関節・ひじ関節・手関節(手首の関節)のことを上肢の3大関節と言います(手関節から先は、後遺障害等級認定では手指として取り扱われます)。
下肢の3大関節
下肢とは、股・ひざ・足首および足指の部分のことであり、股関節・ひざ関節・足関節(足首)のことを下肢の3大関節と言います(足関節から先は、足指として後遺障害等級認定の対象として特に別異に取り扱われます)。
関節の機能障害が残りうるケガ
交通事故によって、上肢もしくは下肢の3大関節に機能障害が残ってしまうケガの一例をご紹介します。
たとえば、骨折によって骨組織や軟部組織(筋肉、靭帯など)の器質的変化(ケガ前の状態に戻らないこと)が伴い、関節が曲がらなくなる症状(可動域制限や関節強直)が引き起こされる可能性があります。
また、関節内の筋や靭帯の断裂によって関節が不安定になるケガが引き起こされる可能性もあります。
可動域制限はどのように確認する?
可動域制限とは、 関節が曲がりにくくなることなど機能上の制限が出てくることをいいます。
関節の可動域の測定方法は、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会により決定された関節可動域表示並びに測定法に基づいて、角度計を使用して5度刻みで測定することになっています。
可動域の角度は、傷害を負った該当箇所の主要運動と参考運動を測り判定していきます。
主要運動とは、各関節における日常動作にとってもっとも重要な動きをさし、参考運動とは日常の動作で主要運動ほど重要ではないと考えられる動きをさします(後ほどご説明する具体例をご参考ください)。
負傷した側の関節の可動域と、負傷していない側の関節の可動域を確認し、負傷した側が負傷していない側の可動域と比べて4分の3を下回った場合に、可動域制限で後遺障害等級が認定される可能性があります。
実際の可動域測定方法の例を上肢と下肢で1つずつ確認しておきましょう。
ひじ関節の可動域の確認方法
ひじ関節には、屈曲・伸展という2種類の運動があり(ひじを曲げたり伸ばしたりすることです)、どちらも主要運動に該当します(参考運動はありません)。
屈曲、伸展のどちらも上腕骨を基本軸として、橈骨(とうこつ。ひじと手首の間の骨)を移動軸として測定します。
前腕は回外位として測定します。
股関節の可動域の確認方法
股関節には、屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋という6つの種類の運動があります。
このうち股関節においては、屈曲・伸展、外転・内転が主要運動とされます。
また、外旋・内旋は股関節における参考運動と位置づけされています。
なお、下記の解説で出てくる背臥位は仰向け、膝屈曲位は仰向けで膝を曲げ頭を高くした状態、腹臥位はうつ伏せで手のひらを下にした状態、膝伸展位は膝を伸ばした状態のことをさします。
1.屈曲・伸展(主要運動)
骨盤と脊柱を充分に固定し、体幹と平行な線を基本軸、大腿骨(大転子と大腿骨外顆の中心を結ぶ線)を移動軸として測定します。
屈曲の測定は背臥位、膝屈曲位で行い、進展の測定は腹臥位、膝伸展位で行います。
2.外転・内転(主要運動)
背臥位で骨盤を固定し、上側の上前腸骨棘を結ぶ線への垂直線を基本軸として、大腿中央線(上前腸骨棘より膝蓋骨中心を結ぶ線)を移動軸として測定します。
下肢は外旋しないように注意します。内転の場合は、反対側の下肢を屈曲挙上してその下を通して内転させて測定します。
3.外旋・内旋(参考運動)
膝蓋骨より下ろした垂直線を基本軸としながら、下腿中央線を移動軸として測定します。
背臥位でひざ関節を90度屈曲位にして行います。
関節の機能障害で認定される後遺障害
関節の機能障害によって認定される後遺障害の認定基準には基準があり、可動域の制限がどの程度発生しているかなどが指標になります。
上肢と下肢それぞれの関節の機能障害で認定される後遺障害等級を説明します。
上肢の機能障害
上肢の機能障害の場合、可動域の制限(どの程度、動きが制限されているか)によって下記のように後遺障害等級が定められています。
関節の可動域の測定方法は先ほど述べたとおり、角度計を使用して5度刻みで測定することになっていて、傷害を負った該当箇所の主要運動と参考運動を測り判定していきます。
部位 | 可動域の制限 | 後遺障害等級 |
---|---|---|
肩関節 | 4分の3以下 | 12級6号 |
2分の1以下 | 10級10号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換(可動域制限無し) | 10級10号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換を行い可動域制限が2分の1以下 | 8級6号 | |
ひじ関節 | 4分の3以下 | 12級6号 |
2分の1以下 | 10級10号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換(可動域制限無し) | 10級10号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換を行い可動域制限が2分の1以下 | 8級6号 | |
手関節 | 4分の3以下 | 12級6号 |
2分の1以下 | 10級10号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換(可動域制限無し) | 10級10号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換を行い、可動域制限が2分の1以下 | 8級6号 | |
前腕 | 2分の1以下 | 12級相当 |
4分の1以下 | 10級相当 |
可動域に程度に応じて、後遺障害8級から12級が認定されます。
人工関節・人口骨頭の挿入置換とは、手術によって人工の関節や骨頭を入れることです。
また、3大関節ではなく、前腕の可動域に制限が残った場合も後遺障害等級が認定される可能性があります。
下肢の機能障害
次に下肢の関節機能障害における後遺障害等級について記載します。
上肢の関節機能障害と同様、部位別の可動域の制限によって下記のように後遺障害等級が定められています。
部位 | 可動域制限レベル | 後遺障害等級 |
---|---|---|
股関節 | 4分の3以下 | 12級7号 |
2分の1以下 | 10級11号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換(可動域制限無し) | 10級11号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換を行い、可動域制限が2分の1以下 | 8級7号 | |
ひざ関節 | 4分の3以下 | 12級7号 |
2分の1以下 | 10級11号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換(可動域制限無し) | 10級11号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換を行い、可動域制限が2分の1以下 | 8級7号 | |
足関節 | 4分の3以下 | 12級7号 |
2分の1以下 | 10級11号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換(可動域制限無し) | 10級11号 | |
人工関節・人口骨頭の挿入置換を行い、可動域制限が2分の1以下 | 8級7号 |
上肢と同様に可動域制限によって後遺障害8級から12級の認定を受ける可能性があり、可動域制限が大きいほど重い後遺障害等級がつきます。
関節の機能障害で支払われる後遺障害慰謝料や逸失利益
関節の機能障害によって支払われる後遺障害慰謝料や逸失利益は後遺障害の等級によって異なります。
後遺障害慰謝料は、等級ごとに基準額が決まっていて、逸失利益は等級によって金額計算に使う労働能力喪失率が変わります。
上肢と下肢の機能障害に分けて、それぞれの後遺障害慰謝料と逸失利益を記載していきます。
上肢の機能障害
上肢関節の機能障害による後遺障害慰謝料と逸失利益は、認定された後遺障害等級によって下記のように異なります。
後遺障害慰謝料
後遺障害等級 | 裁判基準 | 相場 |
---|---|---|
8級 | 830万円 | 660万円〜830万円 |
10級 | 550万円 | 440万円〜550万円 |
12級 | 290万円 | 230万円〜290万円 |
先ほどご説明した、上肢の機能障害で認定される後遺障害8級、10級、12級の後遺障害慰謝料の金額は上記のとおりです。
裁判基準とは、弁護士が保険会社と示談交渉をした際に参考にする基準額で裁判基準で交渉をして基準の8~10割で示談できるケースが多いため、この金額を相場としています。
可動域制限が大きいほど、後遺障害慰謝料の金額も上がります。
逸失利益が支払われるケース
上肢の関節機能障害によって逸失利益が支払われる場合とは、後遺障害の等級が認定され、将来に得られたであろう経済的利益が得られなくなってしまったケースが該当します。
具体例としては、腕を使って重い荷物を持つ動作が求められる仕事(工事現場など)の方が、上肢の可動域制限によって重い荷物を持ち運ぶことが難しくなり、転職や部署異動をした際などが挙げられます。
後遺障害等級の認定を受けると、下記のように認定された後遺障害等級ごとに労働能力喪失率というものが決まります。
特に労働能力喪失率が大きい場合には、示談交渉の場において、必ずしも労働能力喪失率通りの喪失率に基づいて逸失利益が計算されるわけではありませんが、逸失利益は、この労働能力喪失率や、交通事故以前の年収、症状固定時の年齢などを用いて計算します。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
8級 | 45% |
10級 | 27% |
12級 | 14% |
下肢の機能障害
つぎに、下肢における関節機能障害について、等級別の後遺障害慰謝料と逸失利益を記載していきます。
後遺障害慰謝料
後遺障害等級 | 裁判基準 | 相場 |
---|---|---|
8級 | 830万円 | 660万円〜830万円 |
10級 | 550万円 | 440万円〜550万円 |
12級 | 290万円 | 230万円〜290万円 |
下肢における関節機能障害について、どの程度の可動域制限によってどのような後遺障害等級がつくのか記載しました。
裁判基準の慰謝料や金額の相場は、上肢と後遺障害等級が同じであれば金額は同じです。
逸失利益が支払われるケース
下肢の関節機能障害によって逸失利益が支払われる場合とは、後遺障害の等級が認定され、将来に得られたであろう経済的利益が得られなくなってしまったケースになります。
具体例としては、販売員などの立ち仕事や、歩くことが多い営業職の方が下肢の可動域制限によって仕事を続けられなくなってしまったケースなどが挙げられます。
上肢と場合と同様に、後遺障害等級ごとに労働能力喪失率が定められています。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
8級 | 45% |
10級 | 27% |
12級 | 14% |
逸失利益の計算は、複雑かつ専門的で、一人ひとり金額が大きく異なりますので、金額を知りたい方は弁護士に相談して確認することをおすすめいたします。
また、相談前に逸失利益について詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
関節の機能障害は弁護士へ相談がおすすめ
交通事故のケガによって、関節の機能障害が後遺症として残る場合には、弁護士への相談をご検討ください。
弁護士に依頼することで後遺障害の等級認定のサポートを受けることができ、示談交渉で慰謝料増額が期待できるからです。
関節の機能障害がある方が弁護士に依頼するメリットを記載していきます。
後遺障害の等級認定のサポートを受けられる
後遺障害の等級は、適切に必要書類を用意しなければ妥当な等級を認定してもらえない可能性があります。
弁護士に依頼すれば、後遺障害の等級認定に向けて必要書類を正確に収集することが可能です。
また、障害の状況を伝える陳述書や医師の意見書の添付もして申請をするなど、後遺障害の等級認定の結果に納得がいくよう申請準備を進めることができます。
特に、関節の機能障害の測定方法は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された関節可動域表示ならびに測定法に準じていますが、測定する医師の中には、この測定方法とは異なった方法により測定された関節可動域を後遺障害診断書に記載する方もいらっしゃいます。
この場合、後遺障害等級の評価が適切に行われない可能性があるため、医師には、関節可動域表示ならびに測定法に沿った測定をしてもらえるようにお願いしなければなりません。
弁護士に依頼することで、このような際の後遺障害診断書への記入内容の確認や、医師への申し送りを含めてサポートしてもらうことができます。
示談交渉で慰謝料増額が期待できる
交通事故被害で弁護士に相談する最大のメリットは、示談交渉で慰謝料増額が期待できることです。
関節の機能障害では、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2種類の慰謝料を請求できる可能性があります。
ケガをしたことに対して支払われる慰謝料が入通院慰謝料で、後遺障害等級が認定された際に受け取れる慰謝料が後遺障害慰謝料です。
どちらも、弁護士が示談交渉することで金額の増額が期待できます。
たとえば、可動域制限によって10級の後遺障害等級が認定された場合、後遺障害慰謝料は自賠責基準だと190万円ですが、裁判基準では550万円です。
保険会社が提示する慰謝料の金額も自賠責基準と大差のない金額のケースがほとんどですので、示談交渉によって、裁判基準まで慰謝料を増額できる可能性もあります。
弁護士が間に入ることで、慰謝料の増額が見込める点は大きなメリットでしょう。
交通事故の相談は弁護士に
交通事故で関節の機能障害が残った時の後遺障害等級と慰謝料について解説してきました。
妥当な慰謝料を受け取るためには、機能障害が残存してしまったことに対して適切な後遺障害等級の認定を受けることがポイントになります。
また、そのためには交通事故被害に精通した弁護士に相談をすることが重要になるでしょう。