交通事故の被害にあった場合の損害賠償請求は、一定の期間を経過すると時効により請求できなくなります。加害者との交渉が折り合わずに長期間が経過するような場合に被害者としては時効にかからないようにするための対策が必要になることもあります。
また、法改正の影響で2020年3月までの交通事故と2020年4月以降の事故で時効が異なっています。前後で期間や用語について異なるものになるので、併せて確認をしましょう。
交通事故の損害賠償請求権の時効(2020年4月改定)
交通事故の被害にあった場合には損害賠償請求権が発生しますが、この損害賠償請求権は時効によって消滅することがあります。
損害賠償請求権が消滅すると、加害者(保険会社)に時効にかかった旨を主張され、慰謝料請求をできなくなる恐れがあります。
この損害賠償請求権の時効は2020年4月1日から施行された改正法で期間が変わっており、前後で次のような違いがありますので注意をしましょう。
2020年3月31日までの時効に関する制度
2020年3月31日までの時効の制度のもとでは、交通事故の被害者が加害者に請求する損害賠償請求権は、「加害者および損害を知ったときから3年」で時効にかかるとなっています。
また、自賠責保険への請求については、2年で時効となります。
交通事故が発生したのが2020年3月31日以前であれば適用される時効の制度はこちらになります。
2020年4月1日からの時効に関する制度
2020年4月1日から施行された時効に関する制度のもとでは、人身事故と物損事故で時効にかかる期間が異なります。
人身事故については「加害者及び損害を知ったときから5年」で時効にかかります。
物損事故については従来どおり3年で時効にかかります。
また、自賠責保険への請求については、時効が3年に変更されています。
交通事故時から20年が経過しても損害賠償は請求できなくなる
また、交通事故についての損害賠償は、交通事故発生から20年で請求できなくなるという規定もあります(除斥期間という別のルールです)。
ただし、交通事故から20年間も慰謝料請求していないケースはとても稀で、ほとんどの方は気にすることのない時効と言えるでしょう。
時効のカウントは請求内容で変わる!
次に、いつから5年(もしくは3年)で時効となるのか見ていきましょう。
「加害者および損害を知ったときから5年(3年)」で時効にかかるとお伝えしましたが、何で賠償請求をするかによって、時効のタイミングが次のように異なります。
損害賠償の種類 | 時効 |
---|---|
物損事故 | 交通事故の翌日から3年 |
ケガ(傷害) | 交通事故の翌日から5年(3年) |
後遺障害 | 症状固定の翌日から5年(3年) |
死亡事故 | 被害者が亡くなった翌日から5年(3年) |
自動車の損害については、修理代やレッカー代など損害の全容はすぐわかりますので、事故をした翌日から時効をカウントすることになります。
人身事故の場合は、ケガをしたことに対する賠償請求は交通事故の翌日からカウントを開始し、後遺障害が残ったことに対する賠償請求は症状固定の翌日からカウントを開始します。
そのため、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料では時効のタイミングが異なります。
時効までに示談できない時の対処法
時効期間を経過してしまいそうな場合の対策について確認しましょう。
時効の規定があるからといって、損害賠償請求をする被害者は何もできないというわけではありません。
対策することで、時効を迎えた後でも慰謝料請求などをできる可能性があります。
時効の中断(更新)を行う
時効の中断(更新)という措置を行うことで、時効期間のカウントが止めることができます。
もともと時効の中断と言われていたのですが、2020年4月1日の法改正によって、時効の更新、時効の完成猶予に変更になりました。
事故被害者から見れば内容に違いはありません。
弁護士や保険会社とのやりとりの中で、時効の中断とも、時効の更新とも、言われる可能性はあります。
時効を中断(更新)する方法として、交通事故の損害賠償では次の2つの方法が挙げられます。
裁判を起こす
時効を中断(更新)するための方法のひとつに裁判を起こすことが挙げられます。
時効を迎える前に裁判を起こすことで、時効が中断し、その時点から再度10年の時効期間のカウントが始まるようになっています。
なお、裁判を起こすには準備も必要で、すぐには裁判を起こすことができない場合もあります。
この場合には、配達証明つき内容証明郵便で相手方に慰謝料の請求書面を送付します。
そうすることで時効を6ヶ月間延ばすことができ、その期間内に裁判の準備ができます。
債務を承認する(責任を認めてもらう)
債務があることを承認した場合には時効が中断(更新)することになっています。
債務の承認とは、交通事故の相手方(保険会社)に「慰謝料を支払う責任がある」と認めてもらうことです。
慰謝料の一部を支払ってもらった、すでに示談交渉をしていたような場合など、相手側が慰謝料を支払う責任があることを前提に行動していた場合には債務を承認したといえます。
口頭でも問題はありませんが、慰謝料支払いの責任があることを書面に残してもらう、交渉の書面を残しておく、電話の内容を録音して日時も記録に残しておくなどすると、相手方が時効を主張してきた際の、債務を承認している証拠として使うことができます。
時効になる前に弁護士に相談
交通事故の損害賠償請求で時効にかかるかもしれないくらい手続きが長引いているような場合には弁護士に相談することも検討しましょう。
弁護士に相談しておけば、時効によって慰謝料請求ができなくなる事態を防ぐことができます。
また、保険会社は交通事故については保険会社基準という独自の基準で交渉をするため、考えているよりも低い慰謝料で交渉をしてくることや、不当な過失割合を主張してくることもあります。
弁護士に相談することは、このような慰謝料請求のトラブルを解決する助けにもなります。
事故後の手続きで時間がかかり、時効になってしまう心配がある方、交通事故の慰謝料でお悩みの方は弁護士へのご相談をおすすめします。