被害を補償する慰謝料の算定基準には、3種類あります。
その中で最も高額の慰謝料を受け取れるのが、「弁護士基準」と呼ばれる基準です。
今回は、弁護士基準について、慰謝料の算定方法なども含め、他の基準と比較しながら解説します。
示談交渉で十分な額まで慰謝料を増額するため、この記事を読み、弁護士基準について理解を深めましょう。
慰謝料は弁護士基準が最も高額
交通事故の慰謝料の算定基準は3種類あり、どの基準で慰謝料が算定されるかによって支払われる金額が大きく異なります。
できるだけ高い金額の慰謝料を受け取るためには、弁護士基準で慰謝料を算定する必要があります。
弁護士基準とは?
弁護士基準とは、交通事故の慰謝料を算定する基準の一つです。
過去の裁判例をもとにした相場額で慰謝料を算定するため、「裁判基準」と言われることもあります。
弁護士基準で慰謝料を算定すると、他の算定基準より2~3倍の慰謝料を請求できるケースもあり、他の基準に比べて算定金額が高額なことから、「こんなに受け取っていいのだろうか?」「何か裏があるのではないか?」と思われる方もいらっしゃいますが、弁護士基準は裁判例をもとにした正当な基準ですので安心してください。
交通事故の慰謝料の算定には3つの基準がある
弁護士基準の他に慰謝料を算定する基準として「任意保険基準」と「自賠責基準」があります。
弁護士基準以外の2つの基準の特徴や慰謝料の金額について説明します。
任意保険基準
任意保険基準は、保険会社が独自に定める慰謝料の算定基準です。多くのケースで保険会社は任意保険基準で算定した慰謝料の金額を提示してきますが、その金額は弁護士基準よりも低い金額であることがほとんどです。
なお、以前は旧任意保険基準という保険会社統一の基準がありましたが、平成11年7月1日に統一基準が撤廃され、各保険会社で自由に基準を設定できるようになりました。
ただし、現在も多くの保険会社が旧任意保険基準をもとに基準を設定しているため、保険会社により任意保険基準が大きく異なることはあまりありませんが、保険会社によってある程度の差異はあります。
自賠責基準
自賠責基準は、自賠責保険で支払われる慰謝料の算定基準で、3つの基準の中では最も低い金額で慰謝料を算定します。
すべての自動車は、自動車損害賠償保障法に基づき、自賠責保険に入っていなければ運転することはできません。
自賠責保険(共済)は、交通事故による被害者を救済するため、加害者が負うべき最低限の経済的な負担を補てんすることを目的としており、慰謝料の算定基準は低めに設定されています。
弁護士基準の慰謝料を受け取るには弁護士のサポートが必要
弁護士基準で慰謝料の交渉を進めるには、弁護士のサポートが必要です。
自分で弁護士基準の慰謝料金額を調べることはできますが、自分一人で保険会社と交渉するのは難しいでしょう。
弁護士基準で慰謝料を受け取るためには、弁護士に依頼したほうが良い理由を説明します。
保険会社から弁護士基準を提示することは基本的にない
保険会社は、任意保険基準で算定した慰謝料を提示します。保険会社から弁護士基準で算定した慰謝料を提示されることは、まずありません。
保険会社はできるだけ慰謝料を支払いたくないと考えており、弁護士に依頼していない被害者に対して、何かと理由をつけて弁護士基準で算定した慰謝料より低い金額しか認めないことがほとんどです。
弁護士の示談交渉なら弁護士基準が認められる
弁護士は、保険会社と慰謝料の交渉をする際、弁護士基準で算定するための根拠を示します。
そのため、保険会社も弁護士基準での交渉を認めざるをえなくなります。
さらに、弁護士に依頼すれば、慰謝料以外の示談交渉全般についても被害者に有利な交渉が可能となりますし、書類の作成もスムーズに行えます。
また、「弁護士特約」が付いている任意保険に加入している場合は、保険会社が弁護士費用を出してくれるため、費用の心配をせずに弁護士に依頼できます。
弁護士基準で慰謝料を受け取りたい方は、弁護士へ依頼されることをおすすめします。
入通院慰謝料の弁護士基準はいくら?
入通院慰謝料とは、「傷害慰謝料」ともいい、交通事故でケガをしたことで病院に入院したり通院したりしなければならなくなったことにより受ける精神的な苦痛に対して支払われる慰謝料です。
入通院慰謝料を弁護士基準額により算定するとその額がいくらになるのか、弁護士に相談する前に見通しを立ててみましょう。
入通院慰謝料の弁護士基準額
入通院慰謝料は、入院と通院の期間によって金額が決まっており、算定表を使って算定されます。
入通院慰謝料の算定表は2種類あり、骨折など重症の場合には「別表Ⅰ」、他覚症状のないむちうちや打撲などの軽傷の場合は「別表Ⅱ」で算定します。
入通院慰謝料「別表Ⅰ(骨折などの重症の場合)」
入通院慰謝料「別表Ⅱ(他覚症状のないむちうちや打撲などの軽傷)」
基本的にこの「別表1」「別表2」をもとに慰謝料の金額が算定されます。
ただし、これらの表は、あくまでも基準を示すものなので、仮に裁判をしたとしても、必ず上記の金額が認められる訳ではありませんので、注意が必要です。
なお、通院が不規則で長期間の場合は、実際に通院した日数の3.5倍程度を通院期間として計算することがあります。
入通院慰謝料の計算方法
上の表をもとに、具体的に計算してみましょう。
骨折で1ヶ月入院し、その後1ヶ月通院した被害者の場合、別表Ⅰに表記されている入院期間1ヶ月と通院期間1ヶ月が交わる部分の金額である「77万円」が弁護士基準の金額となります。
また、軽傷で入院はしていないものの、3ヶ月通院した場合、別表Ⅱから「53万円」が弁護士基準の金額となります。
別表Ⅰおよび別表Ⅱを使うと一目で入通院慰謝料の基準がわかりますので、目安にしてみてください。
なお、1ヶ月10日と言ったように、入通院期間に1ヶ月未満の端数がある場合は、端数日数が含まれる月の金額から前月分までの金額を差し引き、その差額を日割りします。
別表Ⅰで通院1ヶ月10日の入通院慰謝料を算定する場合、28万円+(52万円-28万円)✕10日÷30日=36万円となります(通常、1ヶ月は30日として計算します)。
自賠責基準、任意保険基準との金額差
入通院慰謝料の弁護士基準と任意保険基準・自賠責保険基準を比較してみましょう。
任意保険基準は保険会社ごとに基準が異なり、公表されていないことが多いので、今回は自賠責基準と比較してみます。
仮に、交通事故の被害者が、重症で2ヶ月入院、2ヶ月通院したとします。
自賠責基準で算定すると、4,300円×120日(入通院日数の合計)=51万6千円が慰謝料となります。
それに対し、弁護士基準の慰謝料は、別表Ⅰの入院2ヶ月、通院2ヶ月の欄を見ると、139万円と表記してあります。
計算結果をまとめると、重傷で2ヶ月入院・2ヶ月通院した場合、自賠責基準は51万6千円、弁護士基準は139万円となり、約2.7倍も金額に差があります。
弁護士費用を差し引いたとしても弁護士基準で算定したほうが良いことがわかります。
後遺障害慰謝料の弁護士基準はいくら?
交通事故の被害者が請求できる慰謝料は、入通院慰謝料だけではありません。
事故の結果、後遺障害が残った場合に請求できる慰謝料を「後遺障害慰謝料」と言います。
後遺障害慰謝料も弁護士基準と他の基準で大きく金額が異なります。
後遺障害慰謝料の弁護士基準額
後遺障害は、その障害の重さによって等級がつけられています。
弁護士基準の後遺障害慰謝料は、障害の等級ごとに14級の110万円から1級・要介護の2,800万円まで設定されています。
入通院慰謝料と後遺障害慰謝料は別のもので、それぞれ請求できます。
後遺障害申請で何級に認定されるかが大事
後遺障害慰謝料を請求するには、後遺障害申請を行わなければなりません。
後遺障害慰謝料は等級によって弁護士基準の金額が決まっているため、認定された後遺障害の等級で、後遺障害慰謝料のおよその金額も決まります。
後遺障害慰謝料の一覧を用意したので、参考にしてみてください。
等級 | 弁護士基準 |
---|---|
1級・要介護 | 2,800万円 |
2級・要介護 | 2,370万円 |
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
自賠責基準との金額差
後遺障害慰謝料の弁護士基準と自賠責基準の金額を比較してみましょう。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
11〜14級を見比べると、弁護士基準と自賠責基準には約3倍も差があることがわかります。
これに入通院慰謝料と合わせて考えると、慰謝料の総額に大きく差が開きます。
弁護士に相談し、弁護士基準の慰謝料獲得へ
今回は、弁護士基準による交通事故の慰謝料について説明しました。
慰謝料を算定する基準は、弁護士基準、任意保険基準、自賠責基準の3種類あります。
このうち、弁護士基準で算定された慰謝料が法的に妥当であり、最も高額です。
入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を合わせて請求する場合は、さらに金額の差が開きます。
弁護士基準での慰謝料請求を行いたい場合に、自分一人で保険会社と交渉していくのは困難なため、まずは弁護士に相談しましょう。